Act 2 first contact
響き渡る銃声、飛び散る血飛沫。
辺りに立ち込めるのは硝煙と血の臭い。
そんな中、ザックスは不謹慎にも欠伸をかみ殺していた。
(あ〜…だりぃ…。)
普段なら瞬殺するようなモンスターを嬲りながら思うのはそればかり。
今日はソルジャーが屋外で一般兵の実戦訓練に参加する日、俗に言う野外体験学習というやつだ。
一般兵が戦場に出るときはソルジャーの援護にまわる事が多い。
戦うソルジャーの後ろから銃で援護。
地味な作業に思われるかもしれないが、これは重要なポジションだ。
そして同時になかなか困難なポジションでもある。
戦場で最も役に立つのは何と言ってもソルジャーだ。
そのため、一般兵に何よりも必要なのはソルジャーを誤って傷つけないだけの銃のセンス、足手まといにならないだけの俊敏さ、状況判断力である。
普段訓練所で高得点を叩き出し、戦況シュミレーションで満点を取っていても、いざ戦場に出てみると
まるで役に立たない、そんなことでは困る。
そこで提案されたのがこの野外体験学習である。
いかにソルジャーの妨げにならずに援護をするかというのが野外学習での課題だ。
よって野外学習は、モンスターと戦っているソルジャーの後ろから援護射撃をするという形式をとる。
そのために駆り出されるのが指導ソルジャーというわけだ。
そして今、その役目をおおせつかわったザックスはモンスターと奮闘している真っ最中なのである。
背後から銃声はするものの実際惜しいところに撃ち込んでくる奴はいないからだ。
皆が皆明後日の方向に発砲している。
技術的な問題もあるが、なによりソルジャーに発砲するほど胆の据わったやつがいないというのが主な理由。
野外学習を考案した上の者の発想としては、一般兵に初めての援護射撃の経験をさせることができるとともに、
銃の技術があまりない者が発砲した弾を避けることによって、ソルジャーもよける作業の練習になり、一石二鳥であるというものがあったが、その読みは甘かった。
指導ソルジャーは一般兵の銃弾から逃れる練習よりも、
瞬殺できる敵をいかにして嬲り殺すかという練習をすることとなるのだ。
今度も銃声がすれど、弾の気配はしない。
かれこれ2時間になるだろうか。
(つまんね〜)
弱い敵の攻撃を意図も簡単に避けながらザックスはこっそりため息をつく。
ここでこんな事をしているよりも、女とデートしている方がどれほど有意義に過ごせることかと考える。
未だ、この野外学習のために断らざるをえなかったデートに未練があるザックスだった。
(一人も撃ってこない野外学習なんざ3rdで十分だっての)
そう心の中で毒づいてみる。
そうすることによって自然と苛々の矛先は一般兵に向かった。
(一人ぐらいは命中させてもよさそうなもんだろ〜!この根性なし!)
八つ当たりのように心の中で罵倒すると、自然と力が篭ってモンスターを危うく殺しそうになる。
まぁ、皆ソルジャーに命中するかもしれない銃を発砲する勇気はないというのは普通な話だ。
誰だって入社早々ソルジャーに発砲して嫌な印象なんて与えたくはない。
ただ、それを押してさえも挑戦しようという胆の据わった奴はいないものだろうか。
(まぁな〜)
ふと自分の時の野外学習を思い出して小さく溜息をつく。
その時も、ソルジャーの近くに発砲したのは自分だけだったという事を思い出したのだ。
再度の銃声が、全く自分に関わりのないことを確かめて、無難すぎる選択を半ば諦めかけていた。
その瞬間
パァン
思わず身を引いてしまった。
だが、身を引かずとも確実にザックスには当たるはずもない絶妙な位置を弾が通過するのをザックスは見た。
まさかと思った。
その瞬間には弾はモンスターの瞳に吸い込まれるようにして突き刺さった。
モンスターがものすごい叫び声を上げる。
途端生じる明らかな隙。
ザックスは反射的に、モンスターに深々と剣を突き刺した。
隙が生じた時に倒す。それが戦闘の鉄則だ。
響き渡るモンスターの断末魔。
続いて巨体が地面に倒れこんだ。
どす黒い血が巨体から流れ出し地面を侵食していく。
一瞬の出来事だった。
息を呑む気配がその場を支配する。
ザックスは刺さった剣を引き抜くと、血を振り払った。
「今の…誰だ?」
突然巻き起こるざわめき。
皆が皆顔を見合わせる中、進み出た兵士が一人。
(いた…)
ザックスは思わず口元を笑みの形にする。
気分は完全に高揚していた。
「所属と認識番号と名前を。」
そう言えば兵士は敬礼の形をとってみせる。
「陸上一般歩兵師団認識番号53、
そこで青年は一度言葉を切ると、息を吸い込んだ。
「クラウド=ストライフです。」
思った以上に声が高かった。
まだボーイソプラノ。
そういえば、14で入社試験をパスして入隊したガキが一人いたとか。
自分が入った時は最年少だと騒がれたが、それと同じ年齢で入社試験をパスしたか。
ますます興味がわいた。
正直わくわくしていた。
自分と同じ事をしてやってのけたのは、一体どんな奴なのか興味深くて。
青い制服の下に隠された顔が気になった。
「顔、見せてくれ。」
そう命令すると、青年は姿勢を正した。
続いて外れたマスクの下から現れたのは。
「は…?」
思わず声を漏らしたザックスに、青年は驚いたように目を丸くした。
だが自分はもっと驚いた顔をしていたと思う。
だってマスクの下から現れたのは。
「お前、女?」
マスクの下から現れたのは、金髪碧眼の少女。
しかも見たことがないような美少女だった。
少女は一瞬きょとんとしたが、見る見るうちに剣呑な色を顔に広げていく。
続いて強烈に睨まれた。
それでもザックスは自分の判断が誤っているなどとは思えなかった。
戸惑うソルジャーと、怒りを顕にした一般兵。
ただ、視線が交錯する。
「二度と間違えないで下さい。俺は男です。」
そう言った一般兵の視線は食い殺されそうなほど鋭い。
媚びる事を知らない、意思の強そうな瞳。
へぇ、と思った。
それが、出会い。