Act3  interesting  person
 
「あ〜ダリィ。」
ザックスは勢いよく寝台に倒れこんだ。
即席の寝台、しかも掛かっているのはかなり古いシーツ。
寝心地は決していいとは言えないが、それでも疲れた体には有り難い。
今日はやたらめったら弱い敵をいかに殺さないかに頭を使いすぎた。
いつも一発で仕留めることを要求されてきただけに、逆の事にはかなり神経を使う。
しかも急所が解っていて、普段からそこを狙う癖がついている分余計だ。
「二時間かけてあいつ一匹だなんて冗談じゃねぇ…」
大きく伸びをしながら思わず愚痴をこぼす。
あのレベルのモンスターならば、普段10秒とかからない。
(…でもまぁ、二時間で済んだだけでも儲けもんなんかな)
同僚の疲れ具合を思い出す。
本来なら自分も4時間かけて一匹のモンスターを倒さなければならなかったはずだ。
一匹が一般兵によって、急所を喰らわされなければ。
テントの天井を見ながらザックスはその要因となる一般兵を思い出した。
全く無難さを求めた一般兵の中で、唯一そこから外れた行動を示した兵のことだ。
「クラウドっつったっけ。」
金髪碧眼でひどく華奢な青年。顔立ちもそんじょそこらの女など手も届かない位に整っていた。
「…あれで女じゃないなんて詐欺だよな」
小さく呟いて笑った。
女と間違えたときの殺しかねないような強い視線を思い出したのである。
ソルジャーである自分にあんな目ができるとは中々肝が据わっている。
(あいつは大物になるかもな)

そうこうしてるうちに猛烈な眠気に襲われた。
瞼が自然と降りてくる。
あぁやっと一日の終わりを向かえられると安堵した瞬間、
隣のテントから何か大きなものが落下する音が聞こえた。
続いて何か怒鳴り声。隣のテントとはある程度離れてはいるが、それはソルジャーの耳、
内容まで詳しく耳に入ってくる。
「離せ!!何すっ!」
聞いたことのある声。続いて人のもみ合う音が聞こえた。
「大人しくしてろよ。そうすれば手荒にはしないさ。」
あからさまにげびた声。こちらは誰だかすぐに特定できた。
ヒル少尉、彼は毎年このイベントで新兵を喰いものにすることで有名だった。
ザックスは自他共に認める女好きであり、
自分と同じ構造を持っている奴とあれこれして何が楽しいのか全く理解できない。
そう考える人間の方が多いはずだから、少尉などに喰われる奴は少数のはず。
だが、そういう訳でもなく、毎年犠牲者が出るのは
その喰われた新兵は少尉付きに出世することを約束されるからだ。
つまり、入社早々の大チャンスというわけだ。
よってその誘いを拒む者はあまりいない。
今は拒んではいるが、時機に陥落するであろうことは目に見えていた。
(あ〜…俺隣になっちゃったか…運ワリィ)
相変わらず続く物音。
そのうち情事の声が聞こえ出すと思うとげんなりした。男同士の情事音など害以外の何物でもない。
布団をすっぽりとかぶって寝ようと試みるがいかんせん音が大きすぎるのと耳が良すぎるのとで全く幸を奏さない。
そのうちザックスは苛立ちを隠せなくなってきた。こちとら疲れているのだ。
やめろとは言わないがもう少し静かにしてくれてもよいのではないだろうか?
ザックスは勘忍袋の緒が切れた。
扉をめくって外に出てすぐ隣のテントの前に立つ。
中ではもう既に真っ最中だと思うと手も止まったが背に腹は代えられない。
勢いよくテントの入口をめくりあげた。
「あのさ〜いい加減にし…」

     ダァン

言葉は続かなかった。ただ突然降って沸いた銃声に驚いた。
続いて視界に入った光景に更に驚く。
銃を構えた金髪の少年。その銃口の先に視線を走らせれば泡を吹いて失心している少尉。
何があったか一瞬解らなかった。
目の前の光景を自分なりに解釈しようと頭を働かせた瞬間、金髪の少年は自分の脇を走り抜けて行った。
自分の存在にも、少尉が失心していることにも気付かない位動揺している事が解った。
それもそうかも知れない。
やっと働き出した頭が納得のいく答えをはじき出した。
突然上司に呼び出されて行けば男だというのに襲われ、揚句の果てには銃をぶっ放したのだ。
少尉の泡吹き顔に再度目をやる。
いつも澄ました顔でいる男なだけにおかしさも一塩だ。
「ぶ」
思わず吹き出した。そして一度吹き出したらもう止まらない。
「はははっ」
吹き出すだけでは飽きたらず気付けば爆笑していた。
親のコネで少尉になり、そのくせいつも威張り散らしているこの男のこんな顔を見るのは初めてというのもある。
だがそれよりもこんな状況を作り出した人物に笑が止まらなかった。
大人しく襲われていれば軽く出世だってできただろうに。
襲われた事も一種の踏み台であったと自己暗示をかければそれで済むだろうに。
それを無下にした。それだけならまだしも銃口まで向けるとは。

鋭い視線を思い出す。
全く物怖じしない
媚びることを全く知らないあの視線を。


「おもしれぇ奴」
左手で前髪をかき揚げながら思わず呟いた。
あんなおもしろいやつ今までに見たことない。
ザックスはふと、小さくほくそ笑んだ。
 
 
この小さな思いつきから何に転じるのか、それにはまだ気付かない。