「凄い…綺麗」
後ろから、ザックスが暢気に降りてくる。セフィロスは、はしゃぐクラウドを掴まえ帽子を被せてしまう。
「日焼けする」
クラウドは、剥れて帽子に手をやる。初めは、全て鍔つきのまるで女の子が被るような奴だったが、大いに抵抗したのとザックスの助け舟があり普通の野球帽になった。
「被っておけって」
「もぉー」
お互いの荷物を持ち、港から離れていく。他の客達は、この二人と一緒にいるのが少年か少女か判らないままであった。ビーチから少し奥には入った静かな所に一軒のシンプルだが大きな屋敷じゃないかと思える家があった。
「でけー」
門の前で、家を見上げているのはザックス。
庭もきちん手入れが行き届いているようで、どこかのリゾートホテルにきたようだ。セフィロスは、セキュリティを解除していく。すると家の扉が開き一人の女性が現れた。
「ダイアナ!!」
「こんにちわ、クラウド君」
クラウドは、訳が判っていない。
確か、何日構えに用事があるからしばらくはこれないって言っていたんじゃ…
「何を驚いている。クラウド」
「だって…」
「用事というのは、ここに先に来てあなた達を迎え入れる準備の事よ。ここの管理人さんと一緒にね」
ダイアナは、もう一人あとからやってきた五十歳ぐらいの男性を紹介した。
「ジャンと、申します」
セフィロスは、名前は知っていたが顔を合わすのは初めてだった。それぞれが、与えられた部屋に荷物を置くと、クラウドの部屋にザックスが飛び込んできた。
「クラウド、部屋見て回ろうぜ」
「えっ?」
ザックスは、クラウドの腕を掴んでそのまま出て行ってしまう。引き摺られるような形で、別荘の一つ一つの部屋を見て回る。
「げっ、海が近いって言うのにプールかよ」
中庭に、でっかいプールがあり綺麗な水があふれ太陽の陽射しを受けて輝いていた。
「それよりか、海早く行こうぜ」
ザックスは、まだ荷物も解いていないというのに…
そこをセフィロスが止めた。
「行くのなら、一人で行って来い」
「あ゛〜〜〜〜、何でだよぉ」
「どうせ、クラウドを出汁になんぱしに行くんだろうが」
何故、判った?という仕草をしてザックスは一人とぼとぼと行ってしまう。
「先に、荷物片付けておけ。それと着替えの時にこれも塗っておけ」
手渡されたのは、日焼け止めクリーム。
クラウドの眉間に皺がよる。
「いいか、クラウド」
「何だよ」
「ほら、お茶を入れましたからいらっしゃいな」
そこへダイアナが声をかける。
ダイアナは、ザックスの姿が見えないのを不思議に思ったら既に海に行ってしまったとセフィロスから聞かされ笑い転げていた。
「あら、クラウド君。日焼け止めクリームは必要よ」
入れてくれたアイスカフェ・ラテを飲みながらダイアナにとどめを指されてしまった。
俺だって、男なのに…
「女性・男性は関係ないわよ。日焼けを通り越して、火傷になってもいいのかしら」
「火傷?」
「それだけ、ここはお前にとって陽射しが強すぎるという事だ。判るか?」
クラウドは、まだ納得していないようだ。
だって、こんな白い身体貧弱そうで…確かに、貧弱だけど!!
焼くなって言われたって…
セフィロスは、睨みあげてくるクラウドの思いが判ったのかどうか額に手を当てて笑っている。なんか、二人に丸め込まれたような気もするけど、水着に着替えて日焼け止めクリームを塗る。背中の部分はダイアナがやってくれた。
「いい、余り長時間はだめよ。それと、こまめにクリームは塗らないとだめ。泳いだ後もよ」
ダイアナから、ビニールシートとランチの入ったバスケットを受け取りセフィロスがパラソルを肩に担いでいる。俺は、バングルを外そうとしたがセフィロスに止められそのままだ。セフィロスは、海に入る気はないのだろう。ワンウォッシュの細めなストレートジーンズにサンダルを履き、上はまっさらな白いTシャツ。海岸にいる人達が、現れた英雄を見てざわめいている。俺は、海パンの上からアーミーグリーンのハーフパンツをはきスウェットパーカーカーディガンを肌の上から羽織っている。歩くたびに、ビーチサンダルから入り込んでくる白いさらさらとした砂が暑い。フードつきのスウェットカーディガンが邪魔だが、着いたら脱いでしまおう。
「この辺?」
椰子の木が連なって立っていてそこには木陰が出来ている。シートを広げてバスケットをおく。
「ザックス、何処まで遊びに行っちゃったんだろう」
「キキキアチョは、放って置け」
セフィロスは、砂を掘らずにパラソルを砂に突き刺し埋め込む。パラソルを広げ、たシートに座る。クラウドは、バスケットの中からを取り出しセフィロスにカップを渡す。
「こんなに暑いのにホット珈琲でいいの?」
「構わない」
海のほうを見ると、透き通るようなコバルトブルーの海にきらきらと太陽の日が当って輝いている。海辺では、家族連れが子供を海に入れて遊ばせていたりカップルが歩いていたり。そんな穏やかな中を
「クラウド―♪」
向こうから、手を振っているのは、ザックスである。その横には、女性が二人いる。
「やっぱり、軟派してた」
「旦那も、来てたんか」
「煩い」
ザックスの後ろで本物の英雄を名まで見れて女性達が騒いでいる。
「ザックス、此方の方は…あの、セフィロスさんの…」
「ちっ、違うって。こいつ彼女じゃなくて、「彼」だから」
ザックスの背後で冷気を纏って睨んでいる視線が痛い。
「はっちっ、違う、旦那の訓練…ぎゃあ」
ザックスの背中を思い切り平手で叩いてパーカーを脱ぎ捨てると、海辺の方へ行ってしまう。
「墓穴だな」
ザックスが、クラウドの後を追い連れてきた女性達もザックスの後を追っている。
結局、クラウドは恥ずかしがりながらザックス達に混じっている。ザックスの傍を離れないのは、照れてしまっているからでクラウド自身もどう話していいのか判らないからだ。そう言えば、治安維持部門の事務室でも、何時も固まっていたな。お昼近くになって、ザックス達が戻ってくる。クラウドは、二つのバスケットを見て「足りるかなぁ」とぼやいている。
「ザックスが、量減らせば事足りるよ」
「ウウ」
クラウドが、シートにお弁当を並べていく。
飲み物の方は、カップが足りないのでクラウドが気を利かせて海辺にあるカフェ・レストランでコップを借りてきた。
「本当に、いいんですか?」
「構わない」
二人の女性は、サラにマイアと名乗った。
午後は、ザックスが連れてどこかに行ってしまった。クラウドに、日焼け止めクリームを塗ってやるセフィロス。
「遊んでこないのか?」
「うーん、暫くはここにいる」
膝を抱えて、一心に海を見ているクラウド。
元々クラウドはそんなにザックスの様にはしゃぐタイプでもないし、じっとしていても苦にはならない。セフィロスは、このくらいの年齢なら同じ年の者達と一緒で騒いでいるイメージしかないが、クラウドは、どちらかと言うと静を好んだ。このままで行けばザックスと、いいコンビになって俺の傍らで戦ってくれるというイメージを思い浮かべていた。
「今日の夜ね」
「何だ?」
「ここの浜辺でカウントダウンやるんだって。花火も上がるんだって」
クラウドが、ほんのり笑みを浮かばせながら囁くように言う。
「行きたいか?」
クラウドは、首を横に小さく振る。
「ううん、いいよ。きっと凄い人ごみだし…苦手だから…」
「そうか」
「ベランダからでも、花火なら見れると思うが」
クラウドが、にっこり笑う。
「ザックスは、こういったお祭り事好きだから…」
「あいつの好きなようにさせるさ。それに、今日は外でバーベキューだぞ?」
「あっ絶対ザックス、行かないな」
クラウドがくすくす笑う。
クラウドとセフィロスは、先に浜辺から引き上げてきた。
「おかえりなさい」
「「ただいま」」
ダイアナが、くすくす笑う。
以前なら「ん」とか「ああ」とかしか、言わなかった英雄がありきたりの事を子の小さな少年を介して学んでいるのが、嬉しかった。
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