「クラウド」
抱えていた、書類を持ったまま振り返る。
ザックスは、「おい、書類が歩いているぞ」と、突っ込みたくなったがここで言ってしまったらクラウドを宥めるのが大変だからやめておく。
「おっ半分持とうか?」
「いい」
前が、たいして見えていないだろうにそのままてこてこと歩き出すクラウド。
「ザックス、先月の報告書まだ?」
「うっ、もう少し 」
「待てない。催促、きているんだからな」
クラウドの後ろから、ザックスはおとなしく付いてくる。
「なぁ、暖かい所と寒いところ、どっちがいい?」
「はぁ?」
クラウドは、歩くのを止めてまた振り返る。書類と前髪から覗く蒼い瞳が見上げてくる。
「だからよぉ、あったかくて綺麗なお姉ちゃんがいるところと、寒くてほっぺの紅いお姉ちゃんがいるところ。どっちがクラウドはいいのか聞いてるんだよ」
クラウドは、首を傾げてもう一度ザックスを見るがまた身体を反転して通路を歩き出す。一応、学生であるクラウドは冬季休暇中だ。だけど、セフィロスの訓練生でもあり1stソルジャートップとその副官の下士官のバイトをやっているクラウドは、冬季休暇中もバイトだ。
「セフィロス、今会議中だよね」
「う〜〜」
「その合間に一枚でも多い報告書作っておいた方がいいと思うけど?」
ザックスは、会議嫌いのセフィロスが帰って来た時の機嫌の悪さを思い出す。クラウドが来る前は、一度正宗でデスクを真っ二つにした。その後は…思い出しただけでもぞっとするが、旦那ったら俺にサンタガ落としたんだぞ。まぁ、お釈迦になったのは、俺のパソコンだけどよ…
「まぁ、クラウドがいるし…」
クラウドが来てから、俺への八つ当たりは、少しは減ったんだけどよぉ…
「俺が、あの髭達磨の秘書官から文句言われるんだからな。早く仕上げろ、ザックス」
執務室の前に着き、扉を開ける。クラウドが先に入り持っていた飼料を自分のデスクに置く。そしてそのままキッチンに消えていく。
「さーて、格闘しますか、と」
立ち上げて、キーボードと、格闘し始めるザックス。キッチンでは、珈琲を用意しているクラウドがセフィロスのためのお茶請けを一緒に用意している。
「もうすぐ、帰ってくると思うんだけど…」
ザックスのマグに珈琲を注ぎデスクに持っていく。
「サンキューな」
クラウドも、持ってきた資料や書類の整理をし始めている。
しばらくたつと、すっとキッチンに消えるクラウド。
「旦那、ようやく帰ってきたか」
セキュリティが解除され、ドアが開き入ってきたのは不機嫌絶頂のセフィロス。
そこへ。、タイミングよくキッチンから温かい珈琲とレモンパイをトレーに載せたクラウドが現れてにっこりと「お疲れ様でした」というと、先程の機嫌の悪さは何処へ胡散したのかと思えるほど冷気がなくなっている。
「これは、お前が作ったのか?」
「教わったばかりだから、自信ないけど」
クラウドが、照れながらセフィロスが食べるのを待っている。
あーあ
これじゃ、なんか新婚家庭だなぁ
「クラウドー、俺のはぁ?」
「溜まっている報告書できたらね」
ザックスが、肩を落とす。
「美味しいな」
「砂糖使わないで、蜂蜜使ってみたんだけど」
セフィロスは、二口目を口に運んでいる。
「クラウド」
「何?」
しかし、あれだけ騒いで決めたのが
「そんなら、二人でじゃんけんで決めろよ。勝った方に行くから」
クラウドの一言が決めてだった。
セフィロスの膝の上で、気持ちよさそうに眠っているクラウドの髪を指で梳きながら窓の外を見る。眼下に広がるのは、広大な海原しかない。ジュノンから出ている連絡線に乗り個室に入ると、クラウドにすぐスリプルをかけてしまった。ザックスは、荷物を置くと船室を出て行ってしまった。荷物の鞄から、日焼け止めクリームを取り出し掌に出すとクラウドの顔や首筋、腕や足にまで丁寧に塗りたくっていった。時折、クラウドはくすぐったいのか、身を捩じらせて眉間に皺が寄っている。結局、じゃんけんに負けたというよりザックスの熱意に根負けし、正月休暇は一週間コスタ・デ・ソルに滞在する事になった。しかも、セフィロスの別荘で。
「何故、あんな人の多いところに行かねばならん」
別荘といっても、ただ購入させられたようなもので管理人は一応置いているが使用した事がない。管理人には、連絡をしてあるから食料や必要なものはそろえてあるはず。
外に出ていたザックスが、戻ってくる。
「何だ、外にもでねぇで。外、気持ちいいぞ」
「子チョコボ、寝かせたままでか?」
ザックスが、膝の上で丸まって寝ているクラウドを見る。
「部屋に、鍵かけておけば盗まれないって。それに、旦那の個室を知っていて襲う奴なんていねぇって」
「鬱陶しい」
どうせ、甲板に出れば他の旅行客達の視線をめいいっぱい浴びせられるのは判りきっている。それでなくても、船に乗り込む時あれだけ騒がれているのだから。中には、興味本位でこの個室の周りをうろうろとする者さえいる始末。
「クラウド、起こしたら船酔い酷そうだし」
ザックスが、ぱりぱりと頭を掻く。ザックスは、何を思ったかクラウドの軽い身体を持ち上げるとひょいと背負ってしまった。
「おっ、おい」
セフィロスは、慌ててクラウドを取り戻そうとする。
旦那でも、慌てる事あるんだねぇ。
まぁ、旦那のスリプルかけられているんだ。ちょっとや、そっとじゃ起きないって。
「旦那、クラウドのジャケットとってくれ」
「どうする…」
ザックスは、そのままクラウドを背負ったまま出て行ってしまう。慌てて、ジャケットと「正宗」を持ちその後を追いかける。狭い廊下を抜け甲板に上がると、強い陽射しがセフィロスを照りつける。ザックスは、そのまままた階段を上がって二階にある屋上に行ってしまう。その合間も、他の乗船している客達に視線を浴びていたがともかく、二人の後に続いた。
「ここ、旦那」
ザックスは、クラウドをクッションの置かれたビーチベットに寝かしてやる。その上にはパラソルが広げられておりミニテーブルと二人ぶんの椅子が用意されていた。
「ザックス」
「ここ、立ち入り禁止にして貰ったから…」
一人の乗組員が、飲み物の用意をトレーに乗せてやってくる。ザックスが、受け取り礼を述べセフィロスに珈琲を渡す。
「着くまで、ゆっくりできるし少しは旅行気分も出るだろ?」
セフィロスは、ザックスの気遣いに心の中では感謝していた。
自分が何処で眠っているかなんて全く思いもよらずただ小さな寝息を立てているクラウド。
涼しく心地よい海風が、セフィロスの銀糸の髪を攫っていく。
乗客たちの中では、勿論神羅の英雄も見れたしその副官で噂に聞くザックスも見れた。それとは、別にそのザックスの背に心地よさそうに眠っていた一人の少年?に話が持ちきりだった。クラウドが聞いていたら、とてつもなく憤慨ものだ。なんせ、「少年か?少女?か」と議論されていたが誰も確かめる者はいなかった。
ザックスは、、うろうろとひとつどころに落ち着かず、彼方此方を見て回って帰って来たが必ず手には何かを持っていた。
「お前は、猿か?」
「うっさい」
ザックスが今手に持っているのは、ソフトクリーム。
この大柄の男が、ソフトクリームのミックスを食べている所なんか見てもうざいだけだ。ザックスは、全部食べ終わると、軽く伸びをして椅子に座る。
「旦那の別荘が、そこにあったなんて知らなかった」
「行ったことはないがアイシクル・ロッジにも一つあるが」
「行ったことないってねぇ…」
セフィロスの話だと、勝手にプレジデントが褒美だとか何か名前をつけて贈ってくれたそうだ。そう言えば、ここにも神羅名義の別荘なかったか?
連絡線から、汽笛が鳴る。
もうすぐで、コスタ・デ・ソルだ。
眼がさめたときは――
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