セフィロスが、ザックスのマンションにクラウドを迎えに行ったのは深夜を回っていた。クラウドは、ザックスのベッドで、心地よさそうに眠っていた。
 「何か、ルーファウスにとっつかまっていたよ」
 「何故、ルーファウスが」
ザックスは、肩をすかせて見せる。
 「あの坊ちゃん、クラウドと仲良くなりたいんじゃないのー?」
セフィロスに、ビールの缶を渡しセフィロスはプルタブを引く。
 「もう遅いし、このまま泊まっていくか?」
 「……三人も寝れるのか?」
一応、1stであるザックスだがソルジャー専用の兵舎を嫌ってマンション住まいだがベッドは、ひとつしかない。あとは、今セフィロスの尻の下になっているソファーベッドである。
 「朝、クラウドにボこられるのは嫌だぞ」
 「…俺も、同感だが」
結局、ザックスがソファーベッドを使いクラウドの横にセフィロスが横になる。クラウドの方は、全くと言っていいほど爆睡中のため気がついていない。先にクラウドが入っているためベッドの中はかなり暖かい。
 「湯たんぽだな」
セフィロスが噛み殺して笑う。


 「
何で、あんたが横にいるんだよー!!


朝一番、ザックスの家で響いた声がこの一言だった。クラウドより先に早く起きていたセフィロスは、起きそうにもないクラウドの頬を指先でつっいて遊んでいたのだ。突っつきすぎたのか、薄っすらとクラウドの瞼が開きしばらくセフィロスの顔をぼんやり見つめていたのだがだんだん意識も覚醒したらしく、うつろな記憶をかき集めながら上げた声だった。
 「仕方なかろう。ザックスの所にはベットひとつしかないのだから」
 「ザッ…ザックスは?」
あいつならソファーベッドだ。と、いけしゃあしゃあと答える英雄。
 「おい、旦那クラウドで遊んでないで飯だ」
 「ほら、顔洗って口濯いで来い」
クラウドは、ベッドから置き突進して洗面所に消えた。
三人で、賑やかな朝食をとりいったんセフィロスの自宅に戻り学校の支度をしている。
 「明後日が終業式か」
 「うん、なんかね一日早いけどクリスマスパーティするんだって」
 「そうか」
クラウドの話だと、23日の午後、学生達で訓練所を借りてパーティをやるらしい。それに、クラウドも出ると言っていた。まぁ、クリスとカインがそばについているし心配は無いのだが。あのクラウドが、よく出ると言ったのかが不思議だった。クリスマスの事は、リチャードとクリスから聞いたらしい。クラウドを学校に送り届け、そのまま本社ビルに向かう。執務室に入ると、デスクに小さなツリーが置かれていた。
 「なんだ、これは?」
しばらく、その小さなツリーを見つめていたらキッチンから、ザックスが珈琲の入ったマグを持ち入ってきた。
 「あー、それ。受付のリンダに貰ったんだわ」
 「お前にか?」
 「いいや、クラウド」
ツリーの先端には、小さな星がついており小さな飾り付けもしてある。



 「明日、楽しみだね」
 「うん」
クリスは、ニコニコと話し掛けてくる。クラウドがクリスマスパーティが出ると決まった途端、参加人数が膨れ上がり教室を借りるつもりが第一訓練所となった。料理は、学食のおばちゃん達が作ってくれると言う勿論、主催した学生達も手伝う。授業の方もどちらかと言うと宿題の通知だったり、補修の通知だったりそのためあってないようなものだ。まぁ、一番内心ひやひやしているのは成績表ぐらいなもんで、クラウド達のグループはそれほど気にはしていないと言うかのんびりしていた。もうすぐで、この士官学校に入学して八ヶ月。家の事情や、成績の単位が足りない者、訓練や勉強についていけず学校を去っている者もいる。クラウドのクラスも例外ではないが、親しい友達は上位をキープしているおかげで、誰もいない
 「あーあ、この宿題さえなければ嬉しいのにさ」
 「まぁ、レポートだけだし」
各教科の教官から出された宿題の事を考えると憂鬱になりそうなリチャードだった。
 「誰も帰省しないし、たまには皆でやるのもいいよね」
 「うん」
鞄に、宿題のリストが書いてある用紙をしまい教室を出る。校門の所に、誰かが立っているのが見えた。あの特徴ある赤毛にゴーグルは…
 「よっ、子チョコボ、と」
 「レノさん」
カインは、すっとクラウドの背後に立ってレノを睨んでいる。こないだ、目の前で掻っ攫われたのとレノがタークスと言う事で警戒しているようだ。
 「今日は、渡すもんがあるんだぞ、と」
レノは懐から一枚の白い封筒を取り出し、クラウドの前に差し出した。クラウドは、何だろうと思いながら受け取るがレノは、「家に帰ってから開けてみるんだぞ、と」言い残し去っていってしまった。
 「何だったんだろうね」
クラウドは、渡された封筒を見ていたが鞄にしまった。
帰りに、皆でファーストフードによって軽く食べながら帰宅した。
 「お帰りなさい」
ダイアナが、クリスマスの飾り付けをしていた。クラウドは、なんか何時もシンプルなセフィロスの家が急に明るくなったような気がして部屋中見回していた。
 「どうしたの?」
 「くすくす、セフィロスさんに頼まれたのよ」
リビングの窓の横に余り大きくは無いがツリーが置かれオーナメントが飾り付けしてあり、クッションやソファーカバーも変えられていた。
 「なんか、凄いや」
 「もうすぐで、終わるから着替えていらっしゃい」
ダイアナは、いったん手を休めてキッチンへと向かう。クラウドに暖かい紅茶を用意して戻ってきた時には制服から着替えてクリスマスツリーを見上げていた。なんか、その後姿が可愛くてついダイアナはくすくす笑う。
 「後は、照明とかの飾り付けをするだけだから手伝ってくれるかしら」
クラウドは、とても嬉しそうに頷いた。ダイアナが入れてくれた紅茶とクッキーを頬張りながら、視線はツリーに向けられている。午後は、ダイアナがそろえた飾りを二人で飾り付けて夕食の支度が終わると帰っていった。
レノに下校途中に渡された封筒を鞄から持ってきて、封を開けてみた。それは、クリスマスカードだった。
 「うーん」
 「何を唸っている」
はっと、後ろを向けばセフィロスが身を屈めて背後からクラウドを覗き込んでいる。
 「セッ…セフィロス、早いね」
 「いいや、ちょっと抜けてきたところだ」
クラウドは、カードをしまう。
 「おかえり。時間、あるの?」
 「お前の入れた珈琲を飲むぐらいわな」
クラウドは、慌てて珈琲を入れにキッチンに走っている。セフィロスは、確りとクラウドが手に持っていたカードを見ていた。
なんで、あの副社長がクラウドに…
待ち合わせの指定まで書いてあった。
クリスマス・イヴは朝から、社長の警護として夜まで引っ張りまわされる予定で出たくも無いパーティが幾つか入っていた。確か、その中にはあの馬鹿親子が揃うパーティも入っていたはずだ。今更、あの中の悪い親子を見せ掛けだけだけでも仲良く演じた所で、とんだ茶番だ。
 「お待たせ」
 「ありがとう」
珈琲に添えられていたのは、何時もの蜂蜜クッキーだった。なんだか、クラウドは機嫌がよさそうだった。ザックスが、クラウドのためにせめてクリスマスの飾りつけでもしてやれよといわれ、即ダイアナに連絡してダイアナが方々に連絡して買い揃えて運んでもらった。
 「セフィロス…
ありがとう…」
セフィロスは、クラウドの頭に手を置きそっと撫でた。
 「さて、行くか」
 「今日も、遅いの?」
頷くセフィロスを玄関まで見送ってリビングに戻ってくる。



クラウドが起きた時には、セフィロスはいなかった。リビングのテーブルにメモが置かれており、緊急呼び出しがあったこと。それと朝食はキッチンに用意してあるので、きちんと食べていく事とクリスマスパーティ楽しんで来いとかかれてあった。
 「眠い」
のろのろと洗面所に向かい顔を洗ってうがいをして、リビングに行き用意してある朝食を食べる。黙々と朝食を済ませて歯を磨いて支度にかかる。今日は、終業式だ。成績表貰って教官と校長からの挨拶貰ったら終わりだ。何時も送ってくれるセフィロスがいないから少し早めに出ないとと、鞄を持ち家を出る。
そこに待っていたのは――

 「おはようだぞ、と」

レノだった。
ザックスとは違うが中型バイクを傍らに止めて寄りかかっていた。
 「…レノさん?」
 「送っていくんだぞ、と」
クラウドは、つい首を傾げて見せる。
 「でも…」
 「これも、仕事なんだな、と」
クラウドに、メットをちゃっちゃっと被せてしまい「ほら、乗るんだぞ、と」と跨った自分の背後に視線を移す。断わりたいのは山々だが断われる雰囲気が無かった。小さなため息をつきレノの後ろに跨り腰に手を回す。学校の校門で待ち受けていたのは、カインでレノの後ろに乗っているクラウドを見て眉をしかめていた。
 「おはよう」
 「じゃ、子チョコボ明日だぞ、と」
レノは、メットを回収しクラウド間髪をひとしきりくしゃくしゃにすると去っていった。
 「おはよー」
背後から、暢気な声で声をかけてきたのはクリスだった。今日貰う、成績表怖いねぇ何て暢気な事を言っている。リチャードは、午後からのクリスマスパーティで頭がいっぱいのようだった。教室に入りそれぞれが戦々恐々と言った雰囲気の中で、教官が教室に入ってきて名前を呼び成績表を配っていく。
 「うわっ…(汗)俺…Cが二つ…」
 「撃沈って所だな…」
それぞれの悲鳴が聞こえている教室内。
成績のランク的にはAから始まってDまで。Cがひとつでもあれば、休暇でも補修を受けなければならない。最低ランクのDが、二つ以上で退校だ。
 「クラウド、どうだった?」
クリスの問いかけにクラスメートの耳は大きくなっている。
 「うん、何時もどおりだったよ」
クラウドの何時もどおりというのは、Aしか並んでいないと言う事。
せいぜいAにマイナスが付くのは体力面だけだろう。それぞれが悲喜こもごもの中で、校内アナウンスから校長の話が流れてくる。ようやく挨拶も終わって、教官からの号令で終わる。これから、クリスマス・パーティに出る学生達は残っている。
 「確か、第一訓練所だったよね」
 「うん、今日俺ツリー運んでいるの見たぞ」
わいわい、がやがやとこれから始まる二時間足らずのパーティの事を話している。
 「まぁ、美味しいもの食べてケーキ食べて騒ぐだけどさ」
 「サンタは、こないかぁ」
 「当たり前だろー」
皆で第一訓練所について入った時は、既にかなりの人数が集まっていてクラウドが入ってきた途端視線が集中した。何時もは広い訓練所の真ん中に、ツリーが飾られテーブルが並べられ一応白いテーブルクロスがかけてある。ただ、トレーが学食のって言うのが笑えるがそれは仕方ないし、これだけのご馳走を本来ならお休みに入っているのにも拘らず来て作ってくれたのだから、文句は言えまい。
 「凄いね」
回りを見回すとグレーの制服だらけだ。その中で、制服の上からエプロンをかけている生徒達が主催の生徒達だ。しばらくして生徒達が集まり、クリスマスパーティが開かれた。色々なゲームをしたりご馳走を食べてそれぞれが楽しい二時間だった。勿論、めったに笑う顔を見せないクラウドの笑顔が見たくてちらちらと伺ってはいたのだが。さすがに、この日は無防備とはいえないが微笑むクラウドを何人か見ていた。
 「ご馳走も美味しかったし、俺学食の券景品で貰った」
 「クラウドは?」
クラウドが紙袋から出したのは、ボーションが三つだった。
 「ボーションだったんだ」
 「でも、クラウドには必要かもねー」
紙皿の上には、ショートケーキがのっておりクラウドはイチゴを一番初めに頬張っていた。相変わらず、甘いものが大好きなようでケーキを切り分けて貰った時は嬉しそうだった。あちこちで、色々な騒ぎやら声が聞こえる。
 「今日もセフィロスさん達警備なの?」
 「うん、そう言ってた」
 「俺達も二年生上がったら、実技で警備とかはいるんだろ?」
 「そうそう」
騒いで楽しんだクリスマスパーティもお開きになり、それぞれが残ってお喋りしていたり第一訓練所から出て行く者達もいた。クラウド達は、早々に切り上げ第一訓練所を後にして校門までお喋りしながら来ると校門には、リークがまっていた。




 「ただいま」
ソファーに座り誰もいない室内を見渡す。
ツリーのオーナメントが夕陽に当って輝いている。

 クリスマスってした事ないけど…
 なんか、いいな。
 ここに来てから、俺知らない事いっぱいあったよ。

私服に着替え、今日も帰りが遅いのかなァ何て思いながらセフィロスの書斎に入り新しく入れたと言う本を何冊かとって来る。夕食は、ダイアナが用意してくれているので後は暖めるだけだ。それに、明日ダイアナと一緒にケーキを作る予定だし。待ち合わせは、夕方だから間に合うと思うんだ。
 「でも、内輪なパーティだから私服でいいって言ってたけど…」
開きかけていた分厚い本をパタンと閉じ、サンルームに行く。夕陽が差し込んでいるサンルームは茜色に染まっていた。ベンチに腰掛けて背もたれかけて頭だけを空を見上げる。
 「冬は、日が暮れるのが早いなぁ」
この茜色の中セフィロスはどこで今日は仕事をしているんだろう。



 「どうした、旦那」
珍しく、上の空で執務室の大きな窓から映える夕陽を見ながらセフィロスは振り返った。
 「ああ……すまんな、ぼんやりしていた」
 「珍しいな」
ザックスは、黙ってキッチンに入っていき珈琲を入れている。その間にアレックスが執務室に入ってきた。
 「クラウドは、当分お休みですか?」
 「………」

 うわっ機嫌悪い。
 ザックス、こういう時何処に行ったんだ?

ザックスは、マグカップを二つ持ち、暢気に執務室に戻ってくる。
 「なんだ、アレックス」
 「いたのかよ、ザックス」
セフィロスは相変わらず、窓の外を見ている。
 「ああ、そうそう。リークが帰ってきたのと明日のパーティの警備の打ち合わせ」
 「そんなもん、適当で構わない」
 「旦那、まあ一応仕事なんだしー」
ほれと、入れてきた珈琲を渡す。
 「インスタント…」
 「豆、きれてんだわ」
いつもなら、クラウドが気を効かせて買って置くのだがクラウドに暇を出しているせいで、ついに底を付いたようだ。しぶしぶ、口をつけるセフィロス。アレックスは、笑いたくてたまらないのを堪えていた。
 「俺達は、あいつらのお飾りだからな。適当で構わんさ」
 「俺だっていやだぁ。せっかくのクリスマスを何であの二人の顔見なきゃならないんだが」
ザックスがわざとらしいジェスチャーをしてみせる。
そういうザックスは、クリスマスは「彼女」とは過ごさない。多すぎて、見つかるのもやばいというのもあるが固定されるのを嫌がってなのか。警備にかこつけて毎年逃げまくっているようだ。
 「クラウドつれて、コスタ・デ・ソルにでもいきてぇ」
 「クラウドに火傷させるつもりか?ザックス」
色の白いクラウドは、日焼けしても赤くなってすぐ消えてしまう。ミッドガルでその状態なのに、日焼け止めでもさせなければそれこそ日焼けどころじゃすまないだろう。
 「それなら、ゴールドソーサーでもいいなぁ」
 「勿論、パスはお前持ちだろうな」
フリーパスの金額は、幾ら給料のいいソルジャーでも考え物だ。もちろんセフィロスなら簡単に手に入れてしまうだろうが…その時、執務室のインターフォンに知らせが。画面には、タークスのレノがどこか飄々とした雰囲気で立っていた。セフィロスは、苦虫を潰した感じに眉をしかめ無視する事に決め込んだようだ。だが、レノのほうも引き下がらず相変わらずチャイムをまた鳴らす。
 「俺、出るわ」
ザックスが、頭をかきかきドアを開ける。
 「よっ、だぞ、と」
 「なんのようだよ。レノ」
 「用事があるから来たんだぞ、と」
ひょいと、塞いでいるザックスの身体の向こうから顔だけ出しセフィロスに挨拶している。アレックスは、こいつもザックスと同じタイプかとまじまじと見る。
 「で、その用事って?」
 「坊ちゃんから、これ英雄さんとハリネズミにって預かってきたんだぞ、と」
レノは、二通の封書持ちひらひらと振って見せる。ザックスに渡すと、飄々と帰っていった。
 「何だ、ありゃ…」
ドアを閉め、戻ってくるザックス。
渡された封筒の一通をセフィロスに渡す。ザックスは、びりびりとペーパーナイフなんか知らぬとばかりに破いて開けている。
 「クリスマスカード?」
なんか、執務室の気温…めっちゃ下がってませんか?アレックスは、固まったまま動いていないし…
セフィロスは、無造作に封を開けて中身を見ている。
 「クラウドを出汁に使いおって…」
ザックスが、横からセフィロスのカードを奪い取っていく。アレックスは、機嫌の悪い総隊長によく近寄れるよと心臓に悪いと思いながらこの光景を怖いもの見たさで眺めてしまっている。ザックスは、引き攣ったような面白がっているような笑みを浮かべている。
 「まぁ、クラウドには黙っておいた方がいいだろうなぁ」