クラウドは、自分の部屋で横になっていた。
枕元には、新しく仕入れてきた分厚手本が何冊か置いてあり一冊は開かれて今クラウドが読んでいる。いきなり扉が開かれて、うつぶせになって背中にどしんと乗っかってくる重みが一つ。
 「クラウド―」
 「ザックス、降りろ」
ザックスは、しぶしぶクラウドの背中から降りてクラウドの顔を覗き込む。だけど…
 「寝てる…」
そこへ、ドアが開いて入ってきたのはヴィンセントだった。
 「こら、クラウドは疲れているんだからもう少し寝かせてやれ」
久しぶりに、仕事が終わって帰ってきたと思ったら宿屋の女将さんが作ってくれた夕食を半分眠りながら食べ終えて部屋に入ってしまった。どうやら、本を読もうと開いて沈没したらしい。ヴィンセントは、これ以上クラウドの睡眠を邪魔させないように二人の襟首を持ち外に連れ出してしまう。ヴィンセントは、もう一度部屋に入り何もかけていないクラウドの身体に毛布をかけてやっている。
 「お前らな…」
 「だって、久しぶりに帰ってきたと思ったらすぐ部屋入っちゃったし…」
ザックスが、眉を下げて言い訳をしている。
 「そうだ、ヴィンセントに聞けばいいんだ」
ザックスが、ヴィンセントの髪をくいっと引っ張って顔を下に下ろす。もう、ヴィンセントの方も慣れてしまい抵抗しなくなってしまった。
 「あのさ、クリスマスって何だ?」
 「は?」
ザックスが、眉間に皺寄せてもう一度言う。
 「クリスマスだよ。じっちゃん達が、言っていたんだよ。昔はそういう祭りがあったって」
 「クリスマスって…あのクリスマスか?」
なんせ、ヴィンセントの記憶は改造される前とクラウドにたたき起こされたあの時からの記憶しかない。クリスマスなんて、タークスにいた当時警備の日で忙しく関心なんかなかった。薄っすらとした記憶を探りながら
 「……もしかして、ヴィンセント、クリスマス知らないの?」
 「ナナキにでも聞け」
二人を追い立ててクラウドの部屋から離す。
 「それと、宿題終わったのか?」
二人が、真っ青な顔をして逃げ去っていく。ヴィンセントは、その足でナナキの所に向かうが…ナナキは、ナナキで子供達に囲まれていた。ナナキは、ヴィンセントを見つけた途端逃げるかのように離れてヴィンセントの元にやってきた。
 「参ったよ、何処で聞いてきたんだか知らないけれどクリスマスの事聞かれて…」
 「じっちゃん連中だ。さっき二人組みも、クラウドの所に聞きに来ていた」
二人は、逃げるかのようにして天文台の中に入り込んだ。
 「ねぇ、ヴィンセント、クラウド起こしてきてよ」
 「わ…私がか?」
ヴィンセントは、1歩身を引いた。ナナキが、じっと睨んでくる。
 「ザックスと、セフィロスに頼むよ」
ナナキは、部屋を出て行きくすくす笑う。
疲れて帰ってきた、あの状態のクラウドを起こすのは至難の業だ。以前に一度、おいらが起こそうとした時いきなり斬鉄剣だったからなぁ。
 「セフィロス」
 「何だ?」
何時もセットになっているザックスがいない。だいぶ伸びてきた髪をクラウドに結ばれたのか、一つ三つ網にして後ろで結んである。
 「クラウド、呼んで来てくれよ。、おいら、何時もの展望台にいるからさ」
 「いいよ」
セフィロスは、何の疑問にも思わずクラウドのいる部屋へと、駆け寄っていく。熟睡しているクラウドを起こせるのってあの二人しかいないんだよね―っと、小さなため息を吐き出しながら見送った。
 「クラウド?」
セフィロスは、軽くノックして自分の部屋でもあるクラウドの部屋に入った。自分の文房具や服が、きちんと片付けられている。ザックスは、帰ってきていなくクラウドが横になっているベッドの近くまで来ると、本が散乱していた。クラウドは、暇さえあれば本を読んでいる。セフィロスが、一度なんでそんなに読むのか聞いてみたが「昔からの癖だ」とまた本に視線を落としてしまっていた。クラウドは、開いた本を枕代わりにして瞼を閉じている。小さな手をクラウドの肩にかけて揺さぶってみる。
 「クラウド」
ナナキが、言っていたな。
クラウドは、おいら達の前でだって熟睡しないって。熟睡していても、おいらが入るだけで、起きるって。
 「クラウド、起きて」
クラウドの眉間に皺がより布団から腕が出てきて、セフィロスの腕を掴まえると布団の中に引き釣り困れてしまう。
 「うわっ!クラウド…クラウド、寝ぼけてんじゃ…」
 「…………」
ようやく瞼が開き見えたのは、蒼く角度によっては深い蒼黒になるし蒼翠にもなる不思議な瞳だった。聞いた話だと、クラウドに施された実験のせいだと聞いたけど、元の色はどんな色だったのだろうかといつも思う。
 「俺は、抱き枕か?」
 「大きさ、ちょうどいいんだ」
セフィロスは、もぞもぞとクラウドの腕の中から出るとせっかくの三つ網がわさわさになってしまった。クラウドは起きて、引き出しからブラシを持ってきてセフィを後ろ向きにさせてゴムを解いて梳かし始める。
 「いっ、いいよ!」
 「邪魔だろ」
三つ網を頑として嫌がったのでポニーテールにしてやったら、余計セフィロスは気にして剥れていた。
 「邪魔にならないからいいだろ。それなら、切るか?」
セフィロスは、首を横に振る。
 「ザックスは、毛が硬いから櫛とおらないしつまらないんだ」
 「クラウドだって、すぐ立っちゃうじゃないか」
 「俺は、ザックスほど硬くないと思うが?」
セフィロスは、そう言えばナナキから言伝頼まれていたのを思い出してクラウドに言うと、クラウドは、無造作に頭をかきながら部屋を出て行く。
 「クラウドのほうが方便に跳ねていると思うんだけどなぁ」
後頭部の少し上の所で結ばれた自分の髪を気にしながら、部屋を出て行った。
クラウドは、天文台に上がる途中で彼方此方から同じ事を言われた。
 「おや、クラウド寝ていたのかい?」

何で、判るんだ?

不思議に思いながら、天文台へと上がるはしごに捕まり上に上がる。扉を開けると二人がお茶をしていた。
 「クラ…」
二人は一瞬固まっていたが、ヴィンセントが無言で立ち上がりブラシを持ってきて、訳判らないクラウドの腕を掴み椅子に座らせた途端、その頭にブラシをかけ始める。
 「チョコボでさえ、毛繕いというものをすると思うが?」
 「クラウド、寝癖・・・」
クラウドは、自分の目の前に置かれた鏡を見てようやく自分の頭が凄い事になっていることに気づいた。放っておいたせいか、だいぶ伸び始めている髪でも跳ねる所は跳ねている。襟足が邪魔だと思っていたがこれほど伸びているとは、思っていなかった。ヴィンセントは、ゴムを口に咥え器用にクラウドの髪をまとめ後ろで一つに結わいてしまっている。
 「ほら、出来た」
 「クラウド、髪切る?」
クラウドは、つい先ほどセフィロスにも同じ事言っていたなぁ何てぼんやり考えていた。
 「で?用事って?」
 「うん」
 「クリスマスだ」
クラウドが、二人を見つめる。
 「クリスマスって、クリスマス?」
二人が、同時に頷く。
 「そんな風習まだあったんだ」
 「いや、じっちゃん達に蒸し返されて子供達が聞いてきた」
 「じゃ、やればいいじゃん」
クラウドは、簡単に一言はなつ。
 「おいら、あんまり詳しくは知らないけど確か木に飾り物つけて、紅い服着て美味しいもの食べてプレゼント渡すんじゃなかったっけ?」
 「当っているような、当っていないような」
 「基本的には、遥か昔の宗教が発端だ」
 「神様の誕生日だよな」
ヴィンセントが、脱力している。
 「まぁ、それを祝う日だ」



 「なぁ、ケン」
 「何だよ」
ケンは、メイがへばりついているにも拘らずジャガイモ剥きをしている。ザックスは、横でたまねぎの皮をむいている。
 「俺、カレーってはじめて食うんだ」
 「そうなのか?クラウド、今日カレーにするって言ってたから」
 「俺、にんじん嫌い…」
 「にんじん嫌いという奴は誰?」
ザックスが上を向くとクラウドが覗き込んでいた。
 「お父さん!」
メイは、ケンからとっとと離れてクラウドの足元にへばりつきクラウドはひょいとメイを抱き上げる。
 「クラウド、髪結んでる」
 「ヴィンセントがやった。それより、今日はカレーを作るからな」
 「甘いのと辛いの?」
クラウドが、笑いながら「辛いのは大人用。ケン達は、甘い奴だからな」と、ザックスの頭をわしわしにかきまわす。
 「俺も辛いの食べたい」
 「だめ」
クラウドが腕をまくりながら用意にかかる。
結局、ザックスとケンは大人しく子供用のを食べればよいのに、大人用野を盛り付けて口にした途端悲鳴あげて水を二人でがっついて飲んだのは笑い話。


クラウド&ナナキ&ヴィンセントが、天文台にこもってしかも子供達を立ち入り禁止にして三人でどうするかお茶しながら悩んでいた。
 「ツリーや、ご馳走は何とかなるが…」
 「問題は、プレゼントだね」
クラウドが、今いる子供達の表を作り始めた。
 「えっと…」

ケン ジェシカ
セフィロス メイ
ザックス レナ
イース ナディア
ロバート リンダ
アーサー
ジョン
レイ
ガーウェン


 「全部で14人か」
ヴィンセントが、指折り数える。
 「ともかくさ、街に行って見ようよ」
 「まぁ、一番近いのは「ハイウィンド」だろうな」
かつてのシドのいた街だ。
厄災後、シドはシェラと結婚して荒廃した世界の中街を守り抜いた。そのまま彼の名前が街の名前として残っているし、街の墓地には彼の墓が顕在している。
 「ここは、どうするんだ?」
 「留守番がいれば、いいんだな?」



 「ねぇ、クラウド」
 「何だ?」
クラウドは、腰下にあるナナキの顔を見る。
 「留守番、よかったのかなぁ」
ナナキが、眉間に皺寄せる。
出かけた際に、クラウドは留守番とばかりに召喚獣を一体呼び寄せていた。
 「留守番、必要だろ?」
 「確かに、近寄れないとは思うが…」
二人の後ろにいるのは、ヴィンセント。はっきり言って、気配を殺していないのに存在感が薄い。通り過ぎ行く人がまず、クラウドに目を止めその腰下にいるナナキをみて犬なのか?と、首を傾げていき、その背後にあれだけ派手な服装にも拘らず、黒髪の長髪の紅いマントを背負った青年を見て驚く。
 「オーディーンを留守番に使うなんて…」
 「いいじゃないか、別に村の人に斬鉄剣は出さないし子守りも出来るし」
 「私は、子守りが出来るとは思わなかったが?」
クラウドが、眉をしかめて「だめか?」と聞くがだめと言うよりそういう使いかた、誰も思わないって。まぁ、怖がって、何かしようなんて思わないしね。
 「ほら、それよりプレゼント探さないと」
 「ご馳走や、ケーキはどうするの?」
 「作れるだろ?」
クラウドは、建ち並んだお店のショーウィンドウや出店を覗き始めた。その後姿は、見た感じそのまんまで16歳ぐらいの少年にしか見えない。
 「なぁ、これとかどうかなあ」
クラウドが見つけたのは、一見の玩具屋さん。
 「こんな店、まだ顕在していたんだ」
クラウドは、ドアを押して入っていくとドアベルがカランと鳴り響く。中には、いろいろな玩具が置いてあった。プラモデルから、お人形まで。クラウドは、目を輝かせながら一つ一つ棚を見ていく。
 「ここで、大体揃いそうだな」
 「そうだね」
ベルがなったのに気づいたのか奥から店の主人が出てきて挨拶をする。
 「あっ、これ俺欲しいかも」
 「お前、自分のを買いに来たのか?子供のか?」
持っていたプラモデルを離し、棚を見始めたクラウドを見てヴィンセントは肩を揺らして笑っていた。こういう所は、たぶん神羅時代のクラウドに近いのだろう。ただ、それがクラウドが心許したものにしか向けない表情だとしても。
 「ねぇ、これなんか、女の子にどうかな」
 「どれ」
ナナキが棚に前足をかけて覗いているのは、ほわほわとした柔らかい素材で出来たヌイグルミや髪留めだったりする。カウンターにヌイグルミ五個と髪留めやカラフルなゴムを持っていくと、主人が驚いていた。
 「あっ、まだあるから」
クラウドは、嬉々として店内に戻っていく。狭い店内に、男二人に犬?一匹でいっぱいになっている。ヴィンセントは、何を選んでいいのか判らず棚のものを摘んでは見ていた。
 「ヴィンセントも考えろよなー」
 「ああ…」
クラウドは、バイクのプラモを見たり飛行機のプラモを見ている。
 「うわっ、これハイウィンドだ」
 「どれ」
クラウドが手にとっている箱には懐かしい写真が載っていた。
 「ああ、それ昔にあったという快速飛行艇でね。ここの街を救ったと言う艇長が設計したって話だ」
まさか、これに乗ってましたと言っても信じられないだろうなぁ。
クラウド達は、何だかんだと騒ぎながらプレゼントを買い込みどうやって持って帰るんだと思っていたらクラウドがミニマムをかけてしまい一つの袋に入れている。
後は、食材だ。
 「ねぇ、クラウド」
 「まあ、食べ物は何とかなるけどさ。ケーキの材料って揃うの?」
クラウドは「何とかなるだろ?」とマーケットの棚を覗いている。何だかんだとお店の人を巻き込んでケーキの材料に必要なものを彼方此方で探してもらい見つかり、礼を述べてマーケットを出る。
 「少し、お茶していこう」


クラウド達は、帰り際シドの墓により、ニブル山を越えて帰ってきた。
バハムートを呼ぶか?と聞くとナナキが必要以上に首を横に振るためだった。