10、すべてが変わるよ、明日から(SideH)





「お前が、好きだ。」

それは正に青天の霹靂というやつだった。




「……………………へ!?」

「………」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまっても誰も責められないと思う。
びっくりした。本当に本当にびっくりした。
何をどうして、どういう流れになればそうなるのか。
だが、高波のような驚きが去って、冷静さが戻ってくれば、何を今更、と思った。
それとも同情してくれているのか?
そう思い、一旦玄冬の胸に手を付いて身体を離した。
目を見て話そうと思った。
だが、玄冬の余りに真剣な顔を見ていたら、余計に何を言ったらいいのか解らなくなった。

「…えーと、その…」

間を埋めるような、意味のない声を出してから。

「な、何度も言ってると思うけど、僕も君のことが好きだよ?」

恐る恐るそう口にしてみると、玄冬は眉をしかめて、苦痛に耐えるような顔をした。

「いや、その好きではなくてだな、その…」

決まりそうな物言い。こんなに言い辛そうな玄冬ははじめてみる。
そこで漸く。本当に漸く遅まきながら思い当たった。
自分ももう、子供ではない。そんなに言い辛い、好きの種類くらいはさすがに解る。
その好きではない、と言われるような好き。
…それってつまり。

「…コレと、ソレをくっつけるって意味でってこと?」

いつぞやの定義を思い出して、そう問えば。

「…っ!!」

(うわー…真っ赤だ…)

頬どころか、耳まで真っ赤にしている。こんな玄冬は見た事がない。
記憶を失くしたと知った時でさえ、こんなにも狼狽し、こんなにも余裕がない状態にはならなかった気がする。
何だか面白いと一瞬思ったものの。直ぐに自己嫌悪の嵐に苛まれる。

「…うわー何それ、なんか、馬鹿みたいだ…」

思わず、そう呟いていた。
自分で勝手に勘違いして、暴走して、泣き出して。
本当に本当に情けない一人芝居だ。
つまりは、信じられなかったのは自分の方だった訳だ。
自分に自信がないから、玄冬のことを信じられなくなって。
疑って。
…そう思ったら、自分の馬鹿らしさに心底嫌気が差す。
だが、それと同時になんとも温かい気持ちが胸に広がった。

(…なんだ…)

そう、思った。なんだそんなことか、と。

「そうか…そうなんだ…じゃぁ…すべてが変わるよ、明日から。」

「……やはり、嫌か。」

自然と漏らした声が聞こえていたらしい玄冬が沈痛な面持ちをしたため、慌てて首を振る。

「いや、違うよ!そういう悪い意味じゃなくて…その…何ていったらいいのかな…」

自分は今まで、何処か玄冬が一緒に居る理由を掴みきれていなかった。
『来いよ』とは言ってくれたものの、それが好意からなのか、同情からなのか見分けがつかずにいた。
だが、明日からは、その心配をしなくて済むのだ。
玄冬は、ちゃんと自分のことを好きだから側に居てくれるのだと、そう思うことが出来るのだから。
けれど、そんな細かな事を説明するのも何だか意味がない気がしたから。

「玄冬がそう言ってくれるってことは、僕達が一緒に居る意味が根底から変わるってことでしょ?
友達から、そのー…恋人?みたいなものに。だから。」

そうやって説明した。何だか言っていて自分が照れ臭かった。

「…お前はそれでいいのか?」

真面目に問われて、一瞬考える。本当にそれでいいのか。好きとはどういう意味なのか。

「……正直に言えば、僕はまだ、そういう意味で好きっていうのはよく解らないんだ。」

玄冬のことは好きだと思う。
けれど、その好きの種類はよく解らない。
一緒に居たいとは思うけれど、それがどの感情から端を発しているのかよく解らないのだ。
それは、昔から救世主としての任務と、自分の感情の板ばさみになっていて、それを考える時間が殆どなかったからなのだろう。
けれど。

「…けど、それでも君が好きだから。どういう形であっても、君と一緒に居たいと思うから、そうなってもいいと思う。」

それが、答えだった。
そして、これ以上の答えは今は出せそうにもない。

「…花白。」

「………それじゃ、駄目かな?」

それでは答えになっていないかと。玄冬の気持ちに対して不誠実かとそう問えば。

「…いや。」

そう言って玄冬は首を振った。…そして。

「それで、十分だ。」

春の日差しを思い浮かべるような、柔らかさで笑った。
釣られて花白も微笑む。
花白は玄冬のこの笑顔が本当に好きだった。
…だから、これを見ていられるのであれば、自分達の呼び名がどう変わった所で構いはしない。

不意に、玄冬が手を伸ばしてきた。長い指先が頬に触れ、そして、髪を耳にかけてきた。
見詰め合う。心臓が高鳴った。
次に何が起こるかは解っていた。けれど、避けようとも思わなかった。
優しく唇が重なる。
そう、恋愛だ友情だと言った所で、そう変わるわけでもない。
今までなかったこんなスキンシップが加わる位だ。
ならば、恋人で全く持って構わない。






…けれど、現実はそんなに甘くはなかった。



優しくて、柔らかい、甘い、キス。
それだけでは済まなくて。

「…ん?…んん!!??」

いきなり舌が滑り込んできて思わず目を見開いた。
咄嗟に逃げを打とうとしたものの、すかさず後頭部を押さえつけられてそれも出来ない。
激しいキスに気を取られていたため、そっと腰に手が当てられているのにも気付かなかった。
あっと思った時には、腰を抱き寄せられ、上半身のバランスが崩れ。
早い話が、手近にあったソファに押し倒されていた。

「…ちょ、玄冬…?」

「何だ?」

本当に疑問に思ってだろう、問い返してくる玄冬にに、流石の花白も混乱する。

「何だって、君!!何するつも!」

「嫌か?」

言葉を遮られる。
しかも聞いた事のないような、低くて、甘い声で。

「…〜っ!」

そんな風に問われて嫌だなどと言えるものか。

「〜っ!…嫌っていうか、いきなり過ぎっていうか…!」

「俺はお前が欲しい。」

「…〜っ!!!???」

「…嫌か?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

そういう言い方はずるいだとか、展開が早すぎるだとか、自分が女役をすることは決定なのかだとか、
言ってやりたいことは山ほどあった。
けれど、結局は。



「………………………………イヤじゃ、ナイです…」



そう言うと、玄冬はまた柔らかく微笑んで、また口付けてきた。
結局、自分は玄冬には適わないのだ。


(…けど、まぁいいか…)


そんな風に思ったから。
花白は甘いキスに酔いしれながら、そっと玄冬の背に手をまわした。











Happy End (?)


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お疲れ様でしたぁ!!!


最後は天然魔王玄冬降臨。
吹っ切ってしまえば玄冬の方が立場は断然強いと思います(笑)
そして花白、前途多難。
でもまぁ、結局何のかんの言って、お互い好きなのでいいんだと思います(無理矢理まとめ)

書いててこれだけ楽しいお話は久しぶりでした。

なんだかうじうじ長いお話でしたが、お付き合い頂き本当にありがとうございました!!(深々)