あの日から、クラウドは全く目を合わせてくれなくなった


last step


あの日。
そう、言うまでも無く、あの理性を忘れて押し倒してしまったあの日だ。
夕日差し込むロッカールームで、ザックスは深い深い溜息を落とした。
あの日から、クラウドが寮の部屋にいる頻度が格段に減った。
勤務表には書かれていないにも関わらず、日も昇る前から出勤し、日付が変わる頃に帰ってくる。
疲れて寮の部屋に戻るのが億劫だからと、仮眠室で眠り、帰ってこないこともある。
いつも起きて待っていようと思うのだが、この所の訓練がきつく、その時間にはひっくり帰って、いびきを立てている。
まぁ、その時間を狙ってのことなのだろうが。
そうされている理由を理解しているだけに、漏れ出て来る溜息を押し留めることが出来ない。

「…そんなに嫌かねぇ…」

突如聞えた、己の気持ちを代弁するかのような、発言に、ザックスは勢いよく振り返った。
そこには、パンクスのような髪に、魔光の瞳を持つ男、ヒラギが立っていた。
こんなに背後に立たれているにも関わらず、気付かないほどに、虚弱な気配だった。
ついこの間まで、薔薇色の頬をして、瞳を輝かせていた男が、今は跡形も無い。
灰色の空気の塊が吐き出し、項垂れている。

「いやー短かった…」

そのヒラギの後ろからぴょこんとリョウが顔を出して言った。
何が短かったか、などと問うまでもない。
一瞬絶句したが、その後、思わずザックスは、ぽんと左手をヒラギの肩に乗せた。

「しつこいって、さ…」

哀れな程に更けて見えるヒラギが誰にとも無く呟いた。

「ん?」

「1回した位でいい気になんなよ、しつこいんだっつーのキモイとか、言われてさ…」

「………」

「………」

絶句。
その様子がありありと想像できてしまっただけに、ザックスもリョウも何の言葉も発することが出来なかった。
自分が言われたら、と想像するだけでも心を抉られる、言葉の暴力である。
だが、それを言うに至るまでの経緯も、想像できなくはない。
ヒラギは外見はチャラそうに見えるものの、実は今時珍しいピュアボーイ、もといチェリーボーイだったため、1度そうなってしまったら、
若干調子に乗って毎晩毎晩誘ったのだろう。長い付き合いである分リアルに想像できる。

「あー…でも、な?」

声を出した物の、次に続く言葉が見つからなくて、助けを求めるようにリョウを見る。

「あ、ああ。でも、まぁ、よかったよ、そんな悲しいこという女と別れられて。」

「なぁ、キモイはねぇよな。キモイは。」

絶妙なコンビネーションでフォローを入れたが、帰って来たのは重い重い、梅雨の日の雲のように薄暗い溜息だった。

「…まーな、今俺以上に不幸な奴などいないだろうな」

「うわー可哀想だなお前…」

なんだか何処かで聞いた事のある会話の流れだ。

ただ、状況が天と地のこの状態では、デジャブを起すのも可哀想だ。
ザックスは、20は老けて見えるヒラギの肩をぽん、と叩いた。

「…飲みにいくか。」

ヒラギが、こくりと頷いた。
失恋したら自棄酒。何だか馬鹿馬鹿しい位に定番だが、定番になってしまうほどに、
それが失恋の痛手には効くのだろう。


**


「あーーーーーーーー!!!!!!!!もう、やってられるかーーーーーーー!!!
あんな女こっちから願いさげだぁーーーー!!!!!」

誰がいつ何処から見ても振られたんだろうなと解る台詞を叫びながらビール瓶をあおっているヒラギを、隣の客が迷惑そうに見ている。
ちなみに隣の客はカップル連れで、ほろ酔い加減で、
男の腕が女性の肩にのっているというまさにムーディーな雰囲気だったのだから仕方がない。
ヒラギのだみ声で、すっかり酔いが冷めたらしい女性が、自分の肩から男の腕をやんわりと下ろした。
こりゃ、今夜はあの男はお預けなんだろうななどと、他人事なだけに呑気に思う。

「そう、そう、また新しい女捜せばいいって。
何なら紹介しようか?ソルジャーの彼氏が欲しいなんていう女五万といるぜ。」

リョウが、親身になって、ヒラギを慰めているなんていう状況にも関わらず、そんな事を思ってしまうのは、
自分の今の状況が呪わしいからだろうか。

「…んー…バカヤロー…」

飲むのは大好きなくせに、酒に弱いヒラギは、ウイスキー2杯で机につっぷした。

「あーあーもう、そんな所で寝るなよなぁ。ホント弱ぇんだから。」

リョウが迷惑そうに眉を顰めた。
リョウが、ヒラギの右側に回り、脇の下に自らの肩を入れたのを見計らって、ザックスが会計を済ます。
迷惑料も込みで少し多めに払っておいた。
今日のヒラギの態度に辟易して、店から早目に退散した客も大勢いるだろうから。
マスターは無言で受け取り、「大変ですね」と声をかけてくれた。
先に店を出ていたリョウが、力の入っていない大男を苦戦して運んでいるのに参戦した。
ヒラギを担ぎながら、大通りに出て、タクシーを拾おうとしていた時、


「…なら……たな……」

ぽそっと聞えたヒラギのその言葉が、ザックスの胸に突き刺さった。







結局酔いつぶれたヒラギを家まで送り届けて、丁寧にも寝巻きを着せてやって、
水を飲ませ、ベッドに運んで…など諸々の事をしてやったら、いい時間になってしまい、
夜はどっぷりと更け、朝と夜の丁度中間点みたいな時間になっていた。
気疲れしたリョウと二人で、「お疲れ、また後でな」と、明日な、ではなく後でなという言葉が使われるような時間、部屋に戻り扉を開けた瞬間。
瞳に飛び込んできたのは一際目立つ金の髪だった。

「…クラウド」

会うのが久しぶり過ぎて、声が弾むのを抑えきれない。
クラウドの方はと言えば、まさかこの時間にザックスが帰ってくるなど思いもしなかったのか、雑誌を片手に、大きく目を見開いている。
こんな時間に何の雑誌を読んでいるのかと、クラウドの手元に目をやると、バイクのカタログだった。
最近はザックスに触発されたのか、クラウドもバイクに興味を持ち出したようなのだ。

特にその表紙になっているのは、ザックスの乗っているバイクのニュータイプで、
ホイールサイズやハンドルバー、フェンダーなどをそれぞれ専用設計とすることで、
タイプの異なる個性的なスタイリングを実現しているというのが売りだ。

「あぁ、そのバイク、ニューモデルが出たのな」

どのバイクを買おうと悩んでいるのなら、相談に乗ろうと思い、ソファに腰を下ろした瞬間。隣に腰掛けていたクラウド勢い良く立ち上がった。
まるで反射のような余りにも素早い動作だったため、クラウドは勢いを殺しきれず一瞬よろめく。

「おいおいお前危ないって」

咄嗟に助けようと腕を掴んだ瞬間。びくりと肩を竦められた。
あからさまな拒絶。瞳を過ぎる色濃い恐怖と不安感。
きしりと胸の奥が軋んだ音がする。
クラウドも、自分でもあからさま過ぎた事に気付いたのだろう。
一瞬気まずそうな顔をしたが、それを隠すかのように視線を逸らした。

「コーヒーでも入れてくるよ。」

誤魔化すようにそう言って、掴んだ手を振りほどく。
何気ない動作だったが、ザックスは見てしまった。
クラウドのあからさまにほっとした顔を。

「…っな!」

どうしようもない衝動に駆られて、ザックスはクラウドを背後から抱きしめた。
抱きしめた瞬間、クラウドの匂いが鼻腔一杯に広がって、狂おしいほどの気持ちが湧き上がる。

「ちょっ!…離っ!」

腕の中でもがく身体を更にきつく抱きしめる。
決して息苦しいほどではなく、ただ、逃れる事は難しい程の適度な力で。

「…やっと、抱きしめられた」


情けない事に、声が掠れていた。
そして更に情けない事に、泣きたい位嬉しかった。

「………」

クラウドの抵抗がおさまる。決して緊張が解けた訳ではないが、それでも、大人しく腕の中に納まっている。
自分の胸を通して感じるクラウドの背中の体温。
首元を擽る、柔らかい金糸の髪。
回した腕にかかる、かすかな吐息。
すっぽりとこの腕に収まる小さな身体。
全てが全て、懐かしく、愛おしく、胸の奥に柔らかい光を点してくれる。
肌と肌が触れている。
たったそれだけのことが、こんなにも幸せな気分にさせてくれる。
ただ、これだけなのに、自分がどれだけクラウドという存在に飢えていたのか思い知らされる思いだった。
ずっと、こうしたかった。
何もしなくてもいい。
ただ、こうして腕の中にクラウドという存在を感じて、抱きしめていたかった。
多分もう、随分と前から


***


クラウドは、背後からザックスに抱きしめられ、逃げる事も抵抗する事も出来ずにいた。
自分の心臓の音が、外部に実は漏れ出ているのではないかと思える位、脈打っているのは、
久しぶりの抱擁故か、はたまた、この後の展開を想像してしまう恐怖故か。
ただ、悔しい事に、随分と久しぶりに感じるザックスの体温は思いの他気持ちがよく、
そして、更に悔しい事に、男の癖にザックスなんて男を好きだという思いから、このごつごつした身体を心地よく感じてしまっている。
だが、そこまでだ。
確かにザックスと肌を触れ合う事は気持ちがいい。
いや、気持ちがいいというよりは、心の奥底にそっと毛布をかけられるような心地よさがある。
でも、所詮そこまでなのだ。
これ以上の行為を進めようとするのなら、恐怖とプライドの方が先行するに決まっている。
名残惜しいと思う気持ちには蓋をして、腕の中から逃れようとした瞬間。

「なぁ、俺さ、」

それを見越したかのように声がかかり、思わずびくりと身を竦ませてしまう。
流石にこれは気付いただろう。
そう思うと、申し訳ないやら、情けないやら。
背後から聞える苦笑が、いまの震えを感じ取った事を伝えてくる。

「怖がらせてごめんな。でも、聞いて欲しいんだ。」

遠慮がちにザックスが声を発する。

「俺…お前と一緒にいたい。」

回された腕に、僅かに力が篭るのを感じる。

「話したいし、一緒に居て、ご飯食べたり、テレビ見たり、
くだらない事で笑ったり、そういうこと…したいんだ。」

羅列された行動は全く持って日常的で、特別なことなど何一つ無いのに、
ザックスは酷く真剣で、言葉を挟もうという気も削げる。
ザックスの言いたい事はよく解っている。
確かに、自分はここの所、いかにザックスと顔を合わせないようにするかという事に全身全霊をかけていたといっても過言ではない。
ザックスの勤務表を熟読し、予定を合わせるためではなく、合わせないように、必死でスケジュールを組み立てた。
解っている。自分でも解っているのだ。
だが、それでも、駄目なのだ。
熱を孕んだかのような情熱的な蒼い瞳。
怖い程真剣な瞳。
いつもより熱く感じられた指先。
簡単には解けなかった力強い腕。
それらを思い出すと、今でも震えが走ってしまう。
好きなはずのザックスの腕の中から全力で逃げ出したくなる。
思わず、腕を振りほどこうと、回された腕に手をかけた瞬間、
ザックスの腕に僅かに力が篭った。

「俺の事…怖がらないで…」

切実な響きを伴った声だった。
回された腕の力にではなく、その苦しげな声に息が詰まる。

「お前のこと好きなのに、お前の顔で一番見たいのは笑顔なのに、そんな脅えた顔されると、辛い。」

自分が耳まで真っ赤になるのが解った。

「…ただ、抱きしめたいだけなのに、身竦ませられたりすると、ほんと、悲しい。」

「………」

反応に困って押し黙る。
どうすればいいのか自分でもよく解らなかった。
どうすれば、脅えた顔をしないで済むのか、身を竦ませずに済むのか全く解らなかったからだ。

「…って、今更言うなよって感じかもしんねーな。
でも、俺さ、気付いたんだ。
お前が朝起きても、夜帰って来ても目も合わせてくんなくて、俺と喋ってくんなくて、声もきけなくて…」

その時々でも思い返しているのか、苦しげに、一言一言区切って言うザックスに、胸が痛んだ。
自分の気持ちに手一杯で、された側の気持ちに気付かなかった自分が恥ずかしかった。

「…そんで、思い知った。」

ザックスの深い溜息が首筋にかかる。

「俺、お前が抱きたい以前にお前が好きなんだ。
話したいし、笑って欲しいし、一緒に居て欲しい。
それだけですげー嬉しいし、すげー幸せ。だから…」

そこで、ザックスは一旦言葉を切る。
自らの強い意志を示すように。

「だから、もういい。」

「………え?」

「もうしようなんて言わない。キス以上の事はしない。手も出さない。
…だから…」

回された腕に力が篭る。
息苦しい程に。それは束縛というよりも、寧ろ縋るように。

「…何もしないから、何もしなくてもいいから…このままで居させて欲しい。
お前が傍に居てくんねぇの…すげぇ、辛い。」

ひどく掠れた声で。
まるで、母親に捨てられそうな子供のように。
頭をガツンと殴られたような思いがした。心が激しく揺さぶられる。胸が痛む。
クラウドは唇をきつくかんだ。

(……この、馬鹿)

ソルジャーのくせに。
誰もが憧れるファーストソルジャーで、いつもは自信満々なくせに。

何故、たったこれだけのことで。
毎日会えないとか、目が合わないとか、そんなくだらない事で、こんなにも情けない声を出すのか。

何故。
こんな、自分に自分も持てない、たった一介の一般兵の自分のために。
自己表現も、人付き合いも苦手で、劣等感の塊のような自分のために。

そんな風に悩んでくれるのか。


クラウドの中で、最後の何かがあっけなく外れるのを感じた。



***

久しぶりに感じるクラウドの体温。
柔らかい金糸の髪。
腕の中にすっぽり納まる華奢な身体。
全てが全て愛おしい存在を抱きしめながら、ヒラギの言葉を思い出す。

『…こんなふうになるのなら、しなきゃよかったな…』

人は酔えば本音を吐くとはよく言ったものだ。
朦朧とした意識の中で、ヒラギがいった言葉は、飾り気がなく、それ故真実に近いことを匂わせる。
ヒラギは、本当に彼女の事が好きだったのだ。
自分の童貞と量りにかけても、側にいて欲しかったのだ。
ただ、不器用だっただけで。
自分も彼のように失敗したくない。
道を間違えたくない。
抱けなくたって、キスできなくなったって構わない。
側にいたい。
側にいて、一緒に何気ない時間を過ごして、笑って、毎日一緒にいたい。

どの位の時間そうしていたのだろう。
クラウドの反応を待っていたその時間は一瞬だったのか、はたまた1時間だったのか。
時間の感覚も曖昧なまま、クラウドを抱きしめていたが、
不意に腕の中で振り返られて、ドキリとする。
久しぶりに間近見るクラウドの瞳は以前と変わらず、空のように澄んでいて、引き込まれそうなほど美しい。
ただ、その瞳は剣呑な色をやどし、眉は不自然に釣りあがっていた。

「こんだけ、やっといて、何がもういい、だ。」

そう言って腕を振り払われる。背中を冷や汗が伝った。

「信じられないのは解る。でも…」

我ながら情けない程必死で言い募ろうとした瞬間。

「あんたうまいんだろ?」

「は?」

全く持って予想外の発言が飛び出して、素っ頓狂な声を上げてしまった。

「今まで随分遊んできたんじゃないのか」

遊んできた。
遊んできたと言われて、公園で遊んできたとか、プールで遊んできた、遊園地で遊んできた、
とかそういうピュアな発想ではなく、たくさんの、それこそ不特定多数の女性と関係を持ってきたという意味に
咄嗟に変換してしまうほどには遊んできたザックスは思わず口ごもる。

「え、あぁ、…まぁ、そーなよーな、そうじゃないよーな…」

こんだけ至近距離で詰め寄られれば、目が泳ぐに決まっている。
しかも真実を突きつけられたなら尚更だ。

「どっちだよ」

「いや、まぁ、そりゃ、どちらかと言えば…そう、かな」

白状して、縮こまる。
完全に塩をかけられたナメクジ状態だ。
しかも、塩から脱出したくとも、逃げ道も隠れる場所もない。
形勢逆転。ザックスは完全に目を逸らして、クラウドからの制裁を待っていると。

「じゃあ教えろよ。」

「……はぁ!?」

またもや素っ頓狂な答えが帰って来て、目を白黒させる。
先程からの急展開に、身体も心もついていけない。

「何を教えるって…」

「女の子の抱き方。具体的に。俺がしなきゃいけない時、困らないように。」

一瞬頭が真っ白になった。

『俺がしなきゃいけない時、困らないように?』

それってつまり…
リアルに想像し、脳裏に『失恋』の2文字が点滅し、クラウドに詰め寄った。

「な、お前、誰か他に好きな奴いんのか!?誰か抱きたい奴がいるのか!?
だ、誰だ誰だ誰だ!?俺の知ってる奴か!?それとも知らない…」

「あぁ、もう違うって!!」

肩を掴んで揺さぶる自分を、クラウドは心底面倒臭そうに振り払った。


「ちちちち、違うって…何が!?」

もう、こっちとしては泣きたい気分だ。
抱き方を教えてくれ=抱きたい女がいる。
この図式を目の前に突きつけられて、狼狽しないわけが無い。
そんなザックスを、クラウドは顔を真っ赤にしながら睨みつけてきた。

「抱かれてやるって言ってんの!」

もはや半泣きのザックスに、クラウドは怒ったように言ってくる。

「だ!抱かれるって…さっきまで抱きしめてたし…」

Hのエの字も知らないような子供のような返信をすると、クラウドの顔が耳まで真っ赤になった。
もう、それと見てすぐ解る位照れている。
そこで漸く、我に帰り、クラウドの言葉の意味を理解する。

「だ、抱かれるって…」

そこで、ようやくその意味に至ったザックスもまた、顔に血が上った。
何とも言えない沈黙がその場を支配する。
兵隊なんていうゴツイ職業している男二人が狭い部屋で、顔を真っ赤にしているなんて、
コメディ以外の何物でもない。

「ほ、ホントのホントに本気か?」

「…しつこい」

真っ赤のまま、冷たい口調で言い放つが、それが照れ隠しだという事位一目瞭然だ。

「い、いや、でも、やっぱり…」

「つべこべ言うな!!!これ以上つべこべ言うようなら、こっちが襲うぞ!!!」

煮え切らないザックスに焦れたのか、クラウドが物凄い剣幕で掴みかかってくる。
いきなりの事で、天下のソルジャー様も受身さえ取れないまま、床に倒れこんだ。

「いてっ!」

気付いたときにはなんと、自分の上にクラウドがのしかかっており、
顔の横に両手を付くという、所謂本当に本当の押し倒しポーズになっていた。
何処かで見た事がある構図だなと思ったら、以前もこのようなポーズだったのだ。
呆気に取られて、呆然とクラウドを見上げていると、
クラウドは徐に自分の服に手をかけ、潔く自分の服を脱ぎ捨てた。
途端に顕になる、滑らかで綺麗なクラウドの肌。
心臓が早鐘のように高鳴る。
思わず食い入るように見詰めると、クラウドは耳どころか首まで真っ赤にして、
ザックスの服に手をかけた。

「あんたも、さっさと脱げ!!!」


好きな人に、押し倒され、上に乗られて、脱げ!なんて叫ばれて。


そんなの、我慢できるわけ、ないデス。

正直な自分の身体は、瞬く間に火照ってしまって、
…あとはもう。




決してロマンチックなんてもんじゃない。
勢いに任せた我武者羅なものだったけど、
それが自分達の形。
生まれて初めての純愛の、不器用な不器用な物語。



End






すんなりといかない、不器用な物語にお付き合いいただきありがとうございます。
クラウドは、自分の容姿やらなんやらにコンプレックスを抱いている分、
この位ややこしい経過になりそうだなーっていう想像でした。