Act11  小休止
 
 
 
「そう言えば、アラン。突然で申し訳ないんだけど、前金の話、いいかな?」
リビングでまったりしている折、クラウドがそう言ったのがそもそもの始まりだった。
 
 
この家を出発するのは明日に延期と言う事になった。
またもや今日にでも出発したいというザードを押し留めて、という形だった。
今度の理由は、ザードの体調が理由ではなかった。アランが憔悴しており、もう少し休みたいと言い張ったからだ。
ここで言い張ったという言葉を使うのは、何処からどう見ても、元気そうなアランを考慮して、の事。
元気ではないかとは思ったが、やはり何でも屋という身分上、どうしても強くは出られない。
長い口論の後、結局ザードが折れて、もう一日滞在する事となった。
フェリスの方も、少し疲れが見えていたからそのせいもあるのかもしれない。
フェリスは、朝一度起きたが、もう一度寝に戻ってしまっていた。
ザードに、ついてなくて大丈夫かと問うと、ついてない方がいいのだという。
よくある事だし、と。
フェリスもそう言っていた事を思い出だす。何だか不思議な二人だと思った。
 
 
 
それはともかくとして、一日生じた思いもがけない休日を、クラウド、ザードアランの三人はリビングでとった。
ソファはあるのに敢えて床で。それは、またもやアランの神経衰弱をしたいという申し出に従ったまでの事。
一枚捲りは戻しを繰り返す単調だが根気の要るゲームの3回戦が終わり、ホッと一息ついた時にクラウドが言った言葉。
それが冒頭の通りである。
 
 
アランの動きがぴたりと止まった。
間。
何だこの間は、と思った。それが露骨に顔に出ていたのだろう。
アランは我に帰ったように大きく首を振った。
「あぁ!!はいはいはい!!払います払います!!」
返事はいい。威勢も。だが、視線の動きがそれを裏切っている。
クラウドと決して目を合わせようとはしてくれない。微妙に視線がずれている。覗き込めばアランは決まり悪そうに笑った。
「あんた、まさか…」
「…そういえば、僕、あんまお金ないんですよね…なんか仕入れてしまったら、もうお金布代に消えたっていうか…」
「……」
無言の抗議にアランは慌てたように立ち上がった。
「あぁ!!もちろん払います!!払いますってば!!」
皆が皆床に腰を下ろしているだけに、立ち上がったアランを下から見上げる形になった。
何だか白々しい。それを本人も解っているらしく、腰を下ろした。
暫く考えた後。
「あ〜………あ!、ていうかもしよければ僕が仕入れた布を貰って代金に代えるってのはなしですか?」
思わず顔を顰めてしまった。
こんな旅行の最中に巨大な布切れなど貰ったところで一体何の役に立てろというのか。
その雰囲気を察したのだろう。アランは取り繕ろうように手を動かした。
「いや、皆さんの服とか結構汚れているし…ほら、洋服とかもありますから!」
「あぁ、そりゃいいな。もしいいのがあれば俺買うぜ。服大分綻んできたしな。」
助け舟を出すザードに、アランは身を乗り出した。満面の笑顔。
「ですよね!ですよね!!ザードさんのくすんだ顔がその解れ掛けてる服では更にくすんで見えますもん!!」
「は?!」
ザードが素っ頓狂な声を上げる。
だがアランは笑顔。先程と寸部も変わらぬ天使の笑顔。
表情と言葉が噛み合っていないため、一瞬気のせいかと思った。
だが。
「ザードさん程の人だったら、よほど綺麗な綺麗な布で仕立てた洋服じゃないと、マシにはなりませんよね。
あ、でもそんなにいい布だと服の方が目立っちゃって駄目ですか?
でも僕的にはそんな顔を目立たせるより布の方目立たせた方が数倍いいと思うんですけど。」
追い討ちをかけるかのようなアランの言葉に、ザードのこめかみがひくついた。
「…てめ、喧嘩売ってんのか?」
低い、威嚇するような声に、アランは頬に両手を当てて驚いた顔をする。
「え、そう聞こえるんですか!?勘違い甚だしいなぁ。被害妄想抜群な男って嫌われますよ?」
「………上等だ。」
見える。火花が見える。青白い火の粉を撒き散らし、熱い戦いが水面下で繰り広げられている。
普段なら放置しておくだろうが、何しろ今クラウドは双方共無事に送り届けなければならない何でも屋。
仲裁しない訳には。
(…いかないよなぁ…。)
何だか馬鹿らしさを感じながら。大きく息を吸って、吐いて。
「おい喧嘩は…」
「ですよねーーー!!」
火花が弾け、電流を発していた片方が、手の平返したような可愛げある態度で、クラウドの元に走り寄って来る。
何だか拍子抜けしてしまうクラウドだ。
「僕のほんの些細な冗談を真に受けて喧嘩仕掛けようなんて大人気ないですよねー!」
「……」
何かもう。何て言ったらいいのか解らない。
突っ込めばいいのか、非難すればいいのか、はたまた聞かなかったことにすればいいのか。
元々コミュニケーションが決して得意ではないクラウドにとってはそれを考えなくてはならないのは更に酷だった。
驚きを通り越して軽く眩暈がする。
ザードに至っては、言葉もないのか、ただひたすらに口をぱくぱくさせている。
「あーあ、やだやだ。これだから年端もいかないガキは。」
外見年齢全く持ってその年端もいかないガキにぴったりフィットなアランがその台詞を言うのは何だか酷く滑稽だ。
わざとらしく聞こえる大きい溜息をついた後、アランが微笑みかけてきた。
「クラウドさんは僕の味方ですよね?」
「…え?」
目に毒な位強烈な笑顔に思わず怯む。
「あーーーんな、ガキンチョより僕についてくれますよね!僕の方が好きですよね!!ね!!」
「ちょ、おいアラン!!てめぇ何言ってんだ!!」
「煩いなぁ。貴方はフェリスさんがいるんだから別にいいでしょう?僕はクラウドさんと仲良くしたいんだ。」
「それとこれとは関係ねぇだろ。今は料金の話してんだろ!!誤魔化すんじゃねぇよ!」
「あーあ、そういうザードさんこそ、クラウドさんが僕より自分の事が好きだっていう自信がないから誤魔化したいんでしょ?
本当にトモダチかどうかも怪しいなぁ…?」
「…………」
なんとも低レベルな争いに思わず頬が引き攣る。立ち去ろうと立ち上がりかけ。
ザードの一声。
「ちょー待てクラウド!!俺達、トモダチ、だろ?」
そのままぴたりと動きを止めた。
(…今、なんつった?)
沸々と込み上げる感情。
「トモダチって言葉振りかざす人って信用ならなかったりするんですよね〜。クラウドさん気をつけた方がいいですよ〜。」
「何言ってんだ!!言葉にしないとわかんねぇこともあるだろが!!」
「トモダチだって言葉にしないとわかんないほど希薄な関係な訳ですね〜」
「あんな、お前トモダチっていうのは…」
「…………い。」
拳を振るわせるクラウドに二人とも気付かない。
(さっきから聞いてりゃくだらない事ばっかり…)
沸々と込み上げてくるのは怒りという感情だった。
『トモダチ、だろ?』
そうザックスは言ってくれた。新羅兵に追われ、にっちもさっちもいかない状態だったのに、そう言って彼は自分を見捨てなかった。
置いて、行かなかった。それは、自分の心の中心で、苦しいけれど、熱い思い出として残っている。
それをこいつらは、もう、何の情緒もなく。
変わらずわめき続ける二人組に、頭の何処かで何かが切れる音がした。
「あんたら、煩い!!!!」
「「………」」
思い切り怒鳴りつけると二人は口を噤んだ。
つかつかと二人に歩み寄ると、まずはザードを思いっきり睨みつけた。
「ザード、あんた剥きになりすぎ。」
言うと、アランは我意を得たりとばかりに舌を出した。そんなアランに向き直ると。
「そんで、アラン。お前結局金はどうすんだ。」
と、睨みつけた。
 
 
 
金はない。けれど契約を解消する気は更々ないアランが選んだのはやはりザードの提案だった。
クラウドの服を、新調してくれるとの事。ついでに布も見せてくれるらしい。
布の方も欲しかったら言ってくれ、と言って、アランは初めに入ってきたときから、
何が入っているんだと思う位大きかった袋を引き寄せる。
「僕の布はそんじょそこらじゃ見られない位希少価値が高いんですよ」
そう言って、アランは器用に片目を瞑り、背を向けた。なにやら鞄を漁っていたが。
「あ、いーの見つけた。これはすごいですよ」
と振り向いた。瞳はキラキラと輝いている。
別段、布に興味などあるわけではないがそこまで言われると少し興味を引かれて、覗き込んだ。
「見てください。僕の目は確かですよ。」
「「………」」
絶句。目の前に広げられたのは、金色の艶々した布。あからさまに化学繊維。
ついでに、金色のスパンコールが縫い付けられていて、三流の手品師でも羽織らないような布だった。
にもかかわらず、アランは何とも得意げに胸を反らして。
「綺麗でしょう?この布はですね、遠い遠い昔に月に帰ってしまったお姫様が恩返しに宅急便で送ってきたそうです。
だから、この布は月で織られた布なんですよ!」
「…お前、それ絶対騙されてるって。月で織られた布にスパンコールがついてる訳ねぇだろ?」
ザックスの正当な突っ込み。アランは一瞬押し黙って、考えるように目を泳がせた後、漸く思い当たったらしく、顔を赤くした。
剥きになって、鞄を漁る。
「っ…じゃぁこっちはどうです!!」
「「………」」
次に取り出したのは緑色の布。そこには、黒い文様が竜の鱗のように描かれている。
…描かれてはいるのだが、時折滲んでいる所などがあり、サインペンで書かれている事が容易に想像できた。
「この布は竜の皮を一枚剥いで作られたものなんですよ。」
誇らしげ。何とも何とも誇らしげ。
「いや、それあからさまに違うし。」
と突っ込むザードを一睨み。
「ザードさんは黙ってて下さい!ね、クラウドさん。」
振られてもどう答えろと。根が不器用なクラウドは咄嗟に答えられずに居た。
「ほら、クラウドさんなんて驚きのあまり声もないじゃないですか〜!」
「………」
まぁそうだ。ある意味驚きのあまり声が出ない。
「解る人には解るんだよなこの価値が。」
満足そうに頷いて、とんでもない物ばかり出てくる四次元ポケットを再度漁っていたと思ったら、瞳を輝かせた。
「そーだ!クラウドさんこれがいいんじゃないですか!?」
「………」
言葉もない。出てきたのはどこぞの国のドレス。
ピンク色で、白のレースが大量に施された可愛らしいもの。ただしやっぱり化学繊維と一目で解る。
笑いを堪えるように、ザードは口元に手をやった。
「いや、ま、似合うけどよ。」
必死に堪えているのだろうが、肩が揺れているのが憎らしい。
苛立ちを、左手で髪を掻き揚げる事で何とか押し留める。
「俺はさ、普通の服が欲しいんだよ。大体俺が女もんのドレスなんて着れないだろ?」
言った瞬間、アランの動きが止まった。手にしていたドレスがぱさりと音を立てて落ちる。
ピンクの化学繊維が床に広がった。何だと顔を見ると、呆けたような顔をしている。
「あ…」
声が漏れた。傷つけてしまったと思った。
自分にとっては普通であっても、彼にとっては普通であった洋服を普通じゃないと形容した事に酷く傷ついてしまったのかと。
謝ろうとして、口を開いた瞬間。
「クラウドさん、もしかして、男の人…なんですか?」
「……は?」
謝らなくてはという想いが強かった分、言ってる事を理解するのに時間がかかった。
「今、なんて…」
問いには答えず、アランは頭を押さえて、膝から崩れ落ちた。
「男…だったんですか…」
視界の端に、笑いを堪え切れなかったのか吹き出すザードが映った。
その瞬間全てを理解した。クラウドはアランの下にゆっくり歩み寄ると、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「契約、破棄したいんですけど、いいですか?」
この上もなく丁寧に。この上もなく営業スマイルで。
アランは冷気でも感じたのか、顔を上げた。瞬間顔が引き攣った。
「い、嫌です…」
瞳が潤んでいる。
「どうしても、どうしても、解約したいんですけど、駄目ですか?」
腰に刺した剣にそっと手をかける。
「い、嫌ですぅ〜!!!」
それでもアランは思い切り首を振った。
客は神様。それが商売の鉄則だと何でも屋を始める前にティファに神妙に言われていなければ、爽やかにこの家から蹴りだすのに。
小さく舌打ちをして、苛立ちは、客、兼トモダチを語る、笑いの止まらぬ男を蹴り飛ばす事で何とか解消した。
抗議をするザードに、トモダチの蹴りあいなんて、よくある風景だろ?としらっと答えてやった。



はい、ギャグです。笑えなくてもこれはギャグなんです(言い張り・死)
なんか今までの話と全体的な雰囲気とかキャラの性格が違うかもですが許して下さい。
しかもストーリー的に全然進んでないし(死)
えー…次からちゃんとストーリー進みます。見捨てないで下さい!!(切実)