本当に何気ない時間を過ごしている時だった。
部屋に一つしかない二人掛けのチェアーで、クラウドは今度の試験の教科書を、
ザックスは趣味で買っているバイクの本を読みながら時間を過ごしていた。
何の変哲もない、そしてある意味とても平和な時間にそれは起こった。
初めは気にならない程度のものだった。
そう階上の住人が少し暴れたのかなと思う程度。
だから気にしなかったのだが、徐々にそれは大きくなってきた。
不自然なほどの横揺れにそれの到来を知る。
「…地震?」
そう呟いたのはどちらだったのか。
まるでその言葉が引き金になったかのように振動が大きくなった。
天井が軋む音。
机の上のコップが揺れて打ち付ける音。
棚の上の物が落ちる音。
様々な音が危険を聴覚に訴えてくる。
そういえば、とクラウドは思う。
このA寮は新羅創設以来ある新羅の寮の中でももっとも古いものだと聞いた事がある。それだけ古いのならば、耐震構造がちゃんとしているとは考えにくい。下手をすれば建物ごと崩れさるかもしれない。
様々な場所が軋んだ音をたてるのを聞きながらふと考えたこと。
(俺死ぬかもしれないな。)
襲ってきたのは何ともいえない焦燥感。
志半ばで、新羅の寮と心中。なんて悲惨なシナリオだ。
死にたくないな、と思った。
その瞬間。
膝の上で握りしめていた手にそっと温もりが触れた。
驚いて温もりに目をやれば、乗せられているのは人の手だった。
大きくて、がっしりとしたザックスの手。
思わず顔を上げれば、真剣な蒼い瞳と視線がぶつかる。
綺麗な蒼色の瞳。
ザックスはただ見つめるだけで何の言葉も発しなかった。
見つめあうだけ。沈黙がその場を支配する。
あぁ、とクラウドは思った。
死にたくはない。
もっと生きたい。
生きて果たしていない夢を果たしたい。
だけど
(こいつとなら死んでもいいかな)
なんて思った。
「…でかかったな」
揺れが納まり一番初めにザックスが発した言葉に、もう地震は終わったのだとの実感が沸く。広がる安堵感。その瞬間我に帰って自分の手に目をやる。
しっかりと握り込まれた手。何だか照れくさくなって早口に言った。
「手、いい加減離せよ」
「…あぁ」
ザックスは今思い出したように手を引いた。
温かい掌が去って少し寂しいと思うなんてどうかしてる。
そのまま流れる沈黙が嫌が応にも先程の思考を思い出させた。
俺、さっき何て思った?さっき…
ふ、と人が動く気配に思わず顔を上げるとザックスは先程まで被せていた手を凝視していた。心臓が小さく跳ねる。何だか先程の思考を読まれていたように感じたからだ。こいつは今何考えてるんだろう?そんなことを考えていたから、ザックスからどうしても目が離せなかった。それだけ見ていて気付かない訳がない。ザックスが顔を上げた。蒼い瞳が自分を映す。鼓動が異常に速くなる。
そしてザックスが言ったことは。
「お前背だけじゃなくて手もちっさいのな」
自分の中で何かが切れる音がした。
続いて聞こえるのは大きな物が倒れる音。
「ってぇ!!何すんだ!!」
床に転がっているのは天下のソルジャー1st。
見事に決まったクリティカルアッパー。
「余計なお世話だ!」
そんな台詞を吐き捨てて、さっさとソファーから退却。
自分の部屋の鍵をしっかり閉めて、小さく溜息。
「あんな事思うなんて心が緩んでる証拠だ」
先程の思考は自分の弱さのせいにする。
明日から訓練メニューを増やそうだなんて的外れな考えに没頭した。
地震ってあんま日常風景じゃないですが(笑)
友達以上恋人未満な一瞬。