今日、本当に本当の久しぶりに発熱した。
元来何をやらかしても風邪は引かない体質で、
「馬鹿は風邪ひかないの見本のようだな」
とクラウドに冷たく言われる程の健康ぶりがひそかに自慢だったのに。
原因なんて追究するのがうんざりする位に思い当たり事がありすぎて。
つまり何の悪戯か知らないが、その山のような思い当たる事の一つがクリティカルにヒットした。
そういうことだろう。
そしたら普段が普段なだけにクラウドは異常に心配してくれちゃって、今日の夕飯は自分が作ると言い出した。だがクラウドの性質を考えると嬉しいはずの手料理も喜んでばかりもいられない。
本日何度目だろう。
何やらガターンだとかコポコポとかいう怪しげな音が聞こえて正直不安。
あのクラウドに本当に料理なんかできるのか?
電子レンジに卵突っ込んで茹卵作ろうとしたクラウドに?
いや、何が出てきても愛故に食べ切る自信はあるが、クラウドが怪我するのだけは戴けない。
「うわ!」とか言う声がキッチンから聞こえて、とうとう病床の身ながら立ち上がった。
キッチンに入るとこりゃまた凄いことになっていた。
鍋やら、フライパンの中に、よく解らない物体が投入されていて、
まな板の上には形がいびつな人参が。
それらを見ただけでは何ができるのか全く見当もつかないが、
ちらりと覗いた三角コーナーには四角い黒の煤の塊が捨ててあったから、
なんか簡単な肉料理でも作る気かもしれない。
昨日はあれだけ肉が食いたいとか言ってたし。
「手伝うよ」
そう言いながら近づけば、きっと睨まれた。
そんな親の敵見るような目で見なくても。
「何しにきた」
いや、だから手伝いに来たんだってっていうツッコミは強烈な目をしているクラウドには敢えてしないに限る。
「今、このキッチンは俺のやりやすいようになってんの。」
この無秩序無法地帯がか?とは思ったが、このクラウドには以下略。
「お前がここに居たって何もできないだろ。正直言って、」
一旦切って言った事。
「邪魔。」
クラウドの一言で絶対零度の世界が完成。ブリザガよりも恐ろしい。
「大人しく寝てろ。」
「はい…」
そこで尻尾を巻いて逃げ出す俺はやっぱり情けない男なんだろうか。
料理とは無縁と感じられるような怪しげな音と、小さな悲鳴を聞きながら
はらはらとした時間を過ごしていて、3時間程経った頃だろうか?
キッチンからクラウドがいそいそと小さな鍋を持ってきて。
「お粥、作ったから。ちゃんと食えよ。」
と差し出した。俺はと言えば目を丸くするばかり。
あれだけの時間、あれだけの材料をお粥のために費やしたのかという疑問はあえてスルー。
俺が驚いたのはそんなんじゃなくて、
まさかお粥なんていう病人病人したものを俺のために作ってくれるなんて思いもよらなかったから。
「え…お前、肉食いたいんじゃなかったの?」
わざわざ俺のために肉焼くよりも手間かかるお粥をつくってくれたのかと。
思わずそう問えば、クラウドは不機嫌そうな顔をして。
「俺はお粥が食べたかったの」
などとのたまう。
小さく「別にお前のためだけじゃないから」と付け足すが、そんなの見え見えな嘘。
昨日は肉が食いたいって言っていた癖に。
別にそんなすぐバレる嘘なんかつかなくたって、正直に言えばいい話なのに。
捻くれもここまでくるといっそ見事だ。
あまりにも素直じゃなさすぎて、本当の言葉を理解するにはには翻訳機能が必要不可欠。
だけどそれ故に思う事、それは。
(ほんと、なーんて…)
可愛い奴
そう思ったら思わず小さく笑ってしまって。
気付いたクラウドが、小さく睨み付けてこう言った。
「なんだよ、いらないなら俺が全部食べるからな。」
照れ隠しのためならその位平気でやる奴だったから、慌てて食わせて下さいと手を合わせる。
渋々と言った様子で差し出されたのは梅風味お粥。
とろとろ御飯の下に埋もれた、しっかり茶色のお焦げは見なかった事にして、
クラウドの今日の3時間をおいしくおいしく頂いた。
今度はザックス視点で。ちなみに first step の前段階。
クラウドは料理下手。ついでに素直下手。
そーいや、人参はどこでしょう?(笑)