大人になる方法
窓から差し込む陽光に、自然と目が覚めた。
寝転がった姿勢のまま、窓の外に目をやれば、眩しいほどに澄んだ空。
敬愛する海の色とはまた違った、青を存分に堪能してから身を起こす。
そのまま大きく伸びをした。
清々しい、朝。
キャプテンザックスの所有する巨大なガレオン船、シルドラにて、副船長を努める、
赤毛がトレードマークのこの男、レノは今日も快適な目覚めを迎えていた。
先日闇の化身、セフィロスとの対決を終え、平和な日常を取り戻したシルドラは、
今日も頗る順調な船旅を続けている。
そう、順調すぎるほどに。 船上での生活はある意味単調だ。
毎日同じ人間と面を突合せ、毎日同じような食事を取り、毎日同じ仕事をこなす。
人間とは不思議なものだ。変化のない単調な日常を送っていればいるほどに刺激を求めるもの。
海に乗り出そうという荒くれ者ならば尚の事。刹那的な快楽を求めて、昼夜賭けに勤しんでいる。
それでも風紀が乱れに乱れないのは、キャプテンの並外れた統率力、絶対厳守が原則の海の掟、
強固な団結力等等の存在、そして。
この船には賭け事以外にも面白いネタの宝庫がいるせいもあるのだろう。
薄い扉を隔てた向こう側、甲板の上から聞こえて来る甲高い声に、レノは思わずほくそ笑んだ。
ほら、今日もまたネタの宝庫が、ネタを提供してくれそうだ。
「ザックスって、いつもそうだ!!俺の事何だと思ってるんだよ!!」
「あぁ、解った。解った。俺が悪いよな。すまんすまん。」 「だから、子供扱いするなってば!」 扉についている小窓から甲板の様子に目をやれば、
目に入るのは、何にご立腹なのかは解らないが、顔を真っ赤にしたクラウドと、涼し気な顔して笑うザックス。
一生懸命モップで甲板磨きをしている下っ端を、わざわざ構いに行くキャプテンという構図はいつも通りだが、
今回はまた様子が違うようだ。
可愛い下っ端のクラウドは、モップ片手にザックスに何やらを必死に訴えかけている。
ただし、必死なのはクラウドだけで、ザックスの方はと言えば、余裕かまして腕まで組んでいるといった様子。
おやおや、と思った。
セフィロスとの一件が落着して、クラウドは晴れてザックスの恋人に昇格した。
クラウドが前からザックスに対して、恋心を抱いていた事は知っていたし、
それに対してザックスもまんざらじゃなく、実は両思いでした、だなんていうオイシイ状況だという事も知っていた。
そんな二人が漸く苦難の末くっ付いた訳だから、レノは心の中でただひたすら祝福したものだ。
ただ、そこで何か変わったかと思えば何の進歩もありゃしないようだ。
変わらず、下っ端とキャプテンという立ち位置は変わらないらしい。
でも、まぁ。
(わからんでもないけどな…)
そう思って、小さく苦笑するレノだ。
クラウドは、まだまだ小さい。
それは背だなんていう物理的な物だけでなく、その年も。
自分の確かな記憶力によれば、クラウドはまだ15歳のはずだ。
愛に年は関係ない。確かにその通りだ。間違ってなどいるものか。
ただ、そうと割り切れないのが、大人というものだ。
15歳。完全なる未成年。対するザックスはと言えば、見た目だけでもクラウドよりもかなり上。
実年齢に当たっては、411歳も離れている。
まぁ、クラウドを子ども扱いするのも仕方がない事と言える。
でもだからと言って、クラウドを完全に子ども扱いして、ただ可愛がっている訳ではない。
ちゃんと恋愛をしている。それは、ザックスの瞳を見れば解ることだ。
ザックスがクラウドを見詰める瞳。それは限りなく優しい。何かもう、見てるこっちが恥ずかしい位だ。 ただ、それには本人のみが気付いていない。
恐らく傍目から見ている人物だけでなく、クラウド本人がそれに気付く位大人にならなければ、
恋人らしい事の一つもできないのだろう。
好きな奴と同じ船の中、手も出さずに成長を待っている。 いつまでも子ども扱いされるクラウドも可哀想だが、ある意味ザックスも可哀想だと思うレノだった。
「もう、いいよ!!」
バカップル共の痴話喧嘩をバックミュージックに、読書に勤しんでいた副船長は、
一際高いクラウドの叫び声に戦闘の終結を知った。
それから暫くして、レノはゆったりとした動作で、本から顔を上げる。
続いて立ち上がり、部屋の隅に置いてあった、客用の折りたたみ椅子を椅子の形にした。
徐にそんな事をしだした理由は簡単。ぱたぱたと言う可愛らしい足音がこの部屋目掛けて来るのが聞こえたからだ。
顔を見るまでもなく、その人物の正体は予想がつく。
クラウドらしい気配は、暫く部屋の外でうろうろとしていたが、漸く決心がついたのだろう。
遠慮がちに扉をノックする音がした。
「レノ…ちょっといいかな?」
思い詰めたような声。
「あぁ、入れよ。」
是の返事を返した途端、クラウドは深刻な顔して入ってきた。 その理由を薄々気付いているものの、敢えて顔には出さない、頭脳派ポーカーフェイスなレノだ。
「どうした?」
「うん、ちょっとレノに相談したい事があって…いいかな…?」
段々と尻すぼみになる言葉と共に、クラウドは頭を垂れた。
その相談したい事とやらの内容まで薄々気付いているレノは、小さく口元を笑みの形にする。
「今更何遠慮してんだ。ま、とりあえず座れよ。」
そう言って、先程作った組み立て椅子を指差すと、クラウドはおずおずといった様子でそこに腰掛けた。
クラウドは何やら思い詰めた様子で、膝の上に組んだ指を動かしていたが、辛抱強くレノが待っていると、徐に顔を上げた。
「ねぇ、レノ。大人になるってどうしたらいいの?」 ははあ、と思った。 その台詞だけで先程の修羅場の原因まで解ってしまうとことん有能な副船長がレノだ。
「ザックスの事か?」 「え!?どうして解ったの!?」
解らいでか。 危うく漏れそうになったその言葉は必死に押し止める。
「いや、ま、とにかくどうしたんだ?」 聞かずとも何となく解ってはいるが、本気で不思議がっているクラウドの先を促してやる。 「なんかさ、ザックスって俺の事いつまで経ってもガキ扱いするんだ」 拗ねたような口調。軽く膨らませた頬。 何だか年相応の子供っぽさがおかしくなって、小さく笑いそうになった瞬間。
「……やっぱり俺じゃ、エアリスの代わりは務まらないのかな…」
そう、思い詰めたように言う。 正直驚いた。
そんな様な内容で悩んでいる事は予想がついていたものの、そこまで思い悩んでいるとは思っていなかった。
本当は、そう言った事を真剣に考え、あまつさえしょんぼりするような所が要因なのではないかと言おうと思っていたのだが、
余りにも思い詰めた様子のクラウドを見て言う気が失せた。
お子様はお子様なりに真剣に考えているのだ。こちらも真剣に考えてやらなくては。
「そんな事あるはずないだろ。」 レノはそう言って笑ってやる。くしゃっと髪を撫でてやっても俯いたままのクラウドに。
「あいつは、ちゃんとお前を見て、ちゃんとお前と話して、お前を好きになったんだ。
秘石であるお前を前にしても決して使おうとなんてしなかった。
あいつはお前を選んだ。それは誇りを持つべきことだ。もっと自分に自信を持てよ。」
「そう、なのかな…」
それでも何だか不安げなクラウドに、レノは苦笑を落とした。
どれだけ自分が言葉で言い募っても、その不安は完全には拭ってやれない事は、何となく解った。
その不安は、自分では和らげる事は出来ても、完全に拭い去る事はできない。
それが出来るのはザックスだけだ。
ザックスもザックスだ。もう少し考えてやればいいものを。
そこまで考えて、不意に沸き起こる悪戯心。
「じゃあ、さ。俺がとっておきの策をやるよ。ザックスがお前を大人扱いしないといけなくなるような、さ。」
しゅんと頭を垂れていたクラウドは勢い良く顔を上げた。
「え!?本当!?何?何?」
目を真ん丸く見開いて、必死に詰めよってくるクラウドが可愛いくて、 レノは吹き出しそうになるのを必死で押し留めなければならなかった。
**
安全な船のキャプテンだからって仕事が全くないって訳ではない。
大事な船を統率するキャプテンだから、仕事だってそれなりにはあるのだ。
本日は次の航路を決めるために書庫で調べ物をしていたザックスは、ふと時計を見上げた。
1時半を回っている。
今の今まで眠気など微塵も感じなかったのに、時計を見た瞬間眠気に誘われるなどという事は良くある話だ。
さて、そろそろ寝ようかと思った瞬間、扉が開いた。
「ザックス」
扉から顔を覗かせたのは、赤毛の副船長、レノだった。
「おう、レノ。どうした?」 今日もまた寝酒を誘いに来たのかと思えばそうではないらしい。
いつも酒の誘いには、ワインを片手にやってくるはずのレノが今日は手ぶらだ。
どうしたんだと再度問えば、レノは、小さく肩を竦めた。
「あのな、お前鈍いから言っとく。 お前が気付かないだけでな、相手はとんでもない事で色々悩んでるって事もあるんだぜ?」
「……は?」 突然現れたと思えば、訳の解らない台詞をほざく訳の解らない男に露骨に眉を顰めてやれば、 「いやまぁ、皆まで言わせるな。」
などともったいぶった物言いをし出す始末。
「つか待て、お前…訳解んねーぞ。」 「まぁまぁ、後は己の目で見極めろ。 …一言だけ言っとく。据え膳食わぬは…だぜ?」
などと言って、意味深な笑みを浮かべて去って行った。 取り残されたザックスはと言えば首を傾げるばかり。
レノとも長い付き合いだ。
行動が多少不審だろうが、別段気にする必要がない事は解ってはいるのだが。 それでもやはり気になりながら、ザックスは本を片付け、書庫から出た。 廊下を横切り、まぁいいかと思い始めた頃、船長室に到着。
欠伸をしながら、その扉を開けた。
瞬間。
「ぶ」
思わず吹き出してしまう。
「なーにが据え膳だ。」
込み上げてくる笑いを噛み殺しながら、ザックスは思わず呟く。
扉を開けて早々、ザックスを出迎えたのは、クラウドの可愛らしい寝顔だった。
何とクラウド、恐れ多くもキャプテンのベッドの上で、なんとも気持ちよさ気に眠っている。
しかも、足は正座の体勢のまま。
正座してザックスを待っていたものの眠ってしまい、コテンと横に倒れてしまったであろう事がバレバレだ。
『据え膳喰わぬは…だぜ?』
レノの先程の台詞が甦る。
そこから推察するに、恐らくベッドの上正座したまま待っていろとでもレノに入れ知恵されたのだろうと予測がついた。
扉を開ければ、自分のベッドで正座して待っているクラウド。喰ってくださいと言わんばかりな。
まぁ、面白い事好きなレノが考えそうな事だ。
それにしても、このクラウドの無防備な事。
緩いカーブを描いた、色素の薄い金色の眉。薄く開いた唇から漏れる、安らかな寝息。
そして極めつけが、いつも着ている真っ白のTシャツの裾、そこから覗く可愛らしい臍。
一応恋人なんだし、ある意味何されてもおかしかない仲な訳で。
もう少し気をつけて欲しいものだが。
ザックスは左手で髪を掻き揚げて小さく苦笑した。
しかしながらこれだけ安心したように寝られると、逆に何も出来なくなってしまう。 (でも、まぁ…)
と思う。
これだけ安心したように寝られるのも悪くはない。 それだけ自分は、クラウドにとって一緒に居て安心出来る存在であるという事だから。
余りにも可愛らしい寝顔に、理性が揺れないでもないザックスだったが、 眠っている子供を叩き起こしてナニをしようだなんて外道な精神は持ち合わせてなどいない。
「ま、暫くはおままごとで我慢しといてやるよ。」
そう言って笑った。
自分のベッドは完全に占領されているし、とりあえず自分は、ソファで眠る事にしよう。
「おやすみ、クラウド。」 そっと額にキスを落としても、身じろぐ気配もなかった。
ただいま据え膳は大切に保管されて、成長の真っ最中。
はい、ザックラ界のカリスマスターもか様のサイト、宝鈴にて大人気、パイレーツシリーズ!
…の同人誌(笑)です!
リクは、『パイレーツの世界観のザックラ』でした。
時間軸的には、『久遠の瞳』の後で、『Stay Of
Memory』の前です。
つか、ぐはぁ!!!って感じです。
元ネタは余りにも素敵なのに、何故私が書くとこんな風に…(涙)
書きながら、「もっとザックスもレノも格好いいのに!!」とか、「クラウドもっと可愛くて頭いいだろ!!」
と突っ込みの嵐でした(死)
こんなんじゃないんです!ええ、宝鈴のパイレーツはもっとすんごいんですよ!
って、恐らく、ザックラファンなら殆どの方が存じていらっしゃるような気がしますが、
もし読んだ事がない方がいらっしゃったら、是非是非行って下さい!
もう、こんなショボイお話ではなく、もっともっと素晴らしくレベルの高いお話が読めます!
もか様!折角のリクエストだったのに、こんなショボイ話になってしまって申し訳ありませんでした!!
そしてそして、大好きなお話の同人誌を書く機会を与えてくださって本当にありがとうございました!!
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