Caution!!
 
一部18禁描写があります。
苦手な方、規定年齢に達していない方はご遠慮下さい。
ヌルイっちゃヌルイし、短いですが、恐らく、このHPで一番の即物的描写です。
オケーな方は題名下の、不自然な空白を反転してやって下さい。
 
また、今回はそれに限らず多少そーいうやおい的描写が多いです。
苦手な方はご遠慮下さい。
 
 
 
 
 
オケーな方はスクロールお願いします。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Act 13 真っ只中
 
 
 
ジルの低い呻き声が頭上から聞こえたかと思うと、熱い液体が口内に放出された。
「…んっ…!!…っ」
突然の出来事に思わずクラウドは勢いよく咽込む。飲めと言われたが、咄嗟に吐き出し殴られた。
殴られた勢いのまま床に倒れる。唇の端が切れていて、口の中に血の味が広がった。どうしようもない屈辱に、唇をきつく噛み締める。
ただタンパク質の含まれた液体を口に含んだだけだ。別段大した事などないのだと、必死に自分に言い聞かせる。
 
命令だと。いつもの言葉を振りかざされ。奉仕させられ、殴られて。
いつもの事なのに、いつまで経っても慣れる事がない。いっそ慣れてしまえば楽なのだろうかとは思う。
強要される度、ヒリヒリと焼け付くように痛む心を持て余す今のような時には。
 
男としての矜持だとか、人間としての権利だとか、自由な意志だとか。
それら全てが粉々に砕かれ、巻き捨てられ、踏みにじられる。どうしようもなく悔しかった。
打ち捨てられたまま、未だ収まらぬ荒い呼吸に肩を弾ませる。
口の中に残った苦味が、その度喉の奥に流れ込んで来るように感じ、吐きそうだった。
それらに懸命に耐えているというのに、不意に襟首を掴まれて、勢いよく起こされた。
何だと思う間もなく、羽織っていたジャケットを勢いよく剥がされる。そこで、漸くこれから先に起こることを察知して、血の気が引いた。
この男は奉仕させるだけじゃ飽き足らず、次を求めている。
そう、口での奉仕に限らない、もっと強烈で、もっと苦しい…。
瞬間、過去受けた仕打ちが脳裏に一気に甦ってきて眩暈がした。
「…っ!やめろっ…!」
必死に腕を振りほどこうと手を伸ばすが、ジルは口元に酷薄な笑みを浮かべるだけだ。
『お前にそう言う権利はあるのか?』その目がそう言っている。冷ややかで、嘲笑うようなその口調。
これが初めてという訳ではない。だが、何度味わった所で慣れる事などない。慣れたくもない。
「…何、今更嫌がってんだよ?いつもあんなにヨがってるくせに。」
カッと頭に血が上った。悔しくて、悔しくて、頭がどうにかなってしまいそうだ。
唇は噛み締めすぎたせいで、新たに血が滲み、頭の中が真っ白になる。
「…ふざけるっ…!」
 
 
「王子様、登場ーーっ…ってか?」
 
『な』、と言おうとした所で突如乱入したその、声。自分の物でも、ジルの物でもない。
ここに居るはずもない、ここに居てはならないはずの。
クラウドは反射的に顔を向けた。向けた視線の先。
そこには。
 
 
「…あんた…」
 
 
そこから先は言葉にならなかった。余りの驚きに、思考さえも完全に停止した。
そう、視線の先に居るのは、こんな所に居るはずもない予想外極まりない人物。
通称CODE Z、登録名ザックス=リスト。
その人が、手を組み壁に背をもたせ掛けたままこちらを見ていた。
「………」
「貴様、何者だ!!?」
呆然としているクラウドを差し置いて、ジルが声を張り上げた。
ジルもよほど動揺したのだろう。叫ぶ勢いのまま襟元を掴んでいた手が離された。
「…っつ!…」
突然の乱暴な行為と、口内に残っていた先程の名残のせいで、クラウドは大きく咽込んだ。
咳き込み過ぎて、目尻に涙が浮かぶのが自分でも解った。
それでも、事の展開が信じられず、懸命に顔を上げると、ザックスが口元に笑みを浮かべたのが見えた。
だが、笑みを浮かべているとは言えども、ソルジャーの証とも言える蒼い瞳が宿しているのは底知れぬ闇のような暗さで、肌が一気に粟立った。
「貴様、答えろっ!何者だ!?どうやって入って来た!?」
混乱のためか、只管喚き立てるジルに、壁にもたれ掛かったまま微動だにしなかったザックスが、小さく肩を竦めて見せた。
「お前、自己紹介どーのこーのの前に、そっちのイチモツしまったらどうだ?」
ザックスはイチモツ、の所で視線を下に下げて、未だ剥き出しであったそれを指し示す。
言われて初めて気付いたのだろう。ジルが思わずといった様子で自分のイチモツに目をやった。
その瞬間。
それが、最後だった。あっと思ったときには、自分の傍らに立っていたはずのジルが思い切り吹き飛ばされていた。
ジルはそのままクラウドの側の壁に激突し、少しバウンドしてから床にズルズルとへたり込む。
遅れて目をやれば、汁は口元からは泡を放出し、白目を剥いていた。完全に意識はないようだ。
蹴りを叩き込んだのだろう。そう察しはついたが、殆ど動きを見ることは出来なかった。
目にも止まらぬ速さ、それに恐怖に似た物を感じる。
一体いつ地面を蹴ったのか、それさえも解らない。人間の範疇を超えた動きだとクラウドは思った。
その当の本人であるザックスは、たった今倒したジルをちらりと冷めた瞳で見た後、ポツリと声を漏らした。
「殺してやりたい所だけど、それより効果的な方法があるしな」
その声は、恐ろしいほどに抑揚がなく、身を切られるような鋭い刃を含んでいるように感じて、一気に肌が寒気立った。
 
つい先日まで自分のターゲットだった男で、数限りない組織に追われ、命を狙われて。
そんな男が何故か張ってもいない罠に自ら飛び込んできて、先日まで本気で命を狙っていた人間の前に現れて、自分には何の徳にもならない行動をして。
全く持って理解不可解。思考回路が破綻寸前。理論的な思考など成り立つはずもない。
余りの展開。そう本当に意味の解らない余りの展開にただただ呆然とザックスを見上げていたクラウドだったが、
不意に瞳を向けられて反射的にびくりと肩を震わせてしまった。喉の奥が動かず、何の言葉も発する事が出来ない。
この男と対峙して、ここまで恐怖を感じたのは初めてだった。
本気で事態に頭がついていっていないにも関わらずそうなってしまうのは、ただ本能的に獲物を仕留めた獣の気配を感じ取ったからだと思う。
何を言うでもなくただ見上げるだけのクラウドをザックスは暫く無言で見詰めていたが、不意にゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
硬質な靴音が少しずつ大きくなっていくのを何処か他人事のように感じる。
それを聞くとはなしに聞いているだけで、逃げるという選択肢は費えてしまった。
気付けば目の前に到達したザックスは、言葉もなく見上げるクラウドをまた無言で見詰めていたが、不意にそっと手を差し出してきた。
節のハッキリした長い指先がゆっくりと伸びてきて、頬に触れる。
驚いて顔を上げると、そのまま視線が絡んだ。逸らせない。抗いがたい何かを感じて、そのまま視線を合わせていると、突然青い虹彩との距離が縮まった。
唇に触れる、何か。
キスされているのだと気付くまでに一体何秒かかったのか。
気付いた時には既に遅く、薄っすらと開いていた唇から、するりと舌が進入してきていた。
驚いて反射的に引こうとしたが、逃がさないとばかりにすかさず頭の後ろに手を当てられる。
「…んっ…」
訳が、解らない。全く持って理解不可解な状況に眩暈がした。一体全体何が起こっているのか。何が今の状況の引き金になったのか。
だが、それを考えようという思考も長くは続かなかった。考えている間にも口付けは深くなるばかりで、考えに気を回す余裕が無い。
丁寧に、丁寧に口内の隅々まで辿られて、軽く酸欠になる。
だがそれは決して乱暴な物ではなく、優しく、労わる様なもので、それがクラウドを更に困惑させた。
満足に空気が得られないまま、長く続けられる口付けに、息はただ上がるばかりで。
頭の芯が痺れて、意識が朦朧とし出した頃、漸く解放された。
身体から力が抜けて、思わずへたり込みそうになった所を抱きとめられる。
「大丈夫か?」
平然と聞いてくる男からは、先程のような殺気は感じられず、漸くクラウドは我に帰った。
「…っにす…んだ…!!」
「消毒。」
当然上げた抗議の声に、ザックスはさらりと悪びれずに答えるだけだった。
「な…」
呆気に取られているクラウドを他所に、ザックスはクラウドの足元を拘束していた鎖に剣を突き立て出した。
「あいつ、男の風上にもおけねぇ男だな。身動き取れない逆らえない奴、無理矢理ヤろうだなんて悪趣味の極みだぜ。」
言ってる間に金属の擦れる独特の音が続いて、クラウドの足元を拘束していた鎖が完全に絶ち切れる。
鎖が切れても、未だ状況も今の言葉の意味も把握しきれておらず、相変わず怪訝そうに見上げていると、
不意にザックスが、小さく首を傾げて見せた。
「何、まだ口の中気持ち悪いか?」
労わるようなその口調に、漸く遅まきながら消毒の意味を理解した。
先程の名残はもう口の中に残っていない。独特の苦味も残らず全て消えていた。
つまりは、あのキスはそういう事だった訳だ。
緩慢に首を振る事で否定の意を示せば、「よし」とザックスは笑顔を向けた。
何がよしなのか全然解らない。というか、何かもう、解る事が殆ど無い。
何のためにその消毒とやらをしてくれたのか。そもそも口でする必要などあったのか。
というか、そもそもそーいう趣味のあるジルならばともかく、男同士で何故消毒と称して口と口を付けなくてならないのか。
他にも疑問に思わなくてはいけない事はあるはずなのだが、とりあえずザックスの一言だけでコレだけの疑問符が生じる。
そんなクラウドの心境を知らずか、知るつもりもないのか、ザックスはもう一度よし、と呟くと剣を鞘に収め、座り込んだままのクラウドに手を伸ばしてきた。
「じゃ、行こうぜ。」
にっこりと。全く悪びれる事も無く、ごく自然な動作で。まるで道端で転んでしまった人に対して手を差し伸べるように。
その余りに自然な動作で差し出された手に、反射的に手を伸ばしてしまって。
その手に触れそうになって慌てて引っ込めた。
漸く。
そう本当に漸く遅まきながら、この急激な展開の違和感に頭がついてきた。その、瞬間だった。
 
「っていうか、あんた、何してるんだ!!」
 
突然叫びだしたクラウドに、ザックスは目を丸くする。
「…は?…何って…」
クラウドの言葉にザックスは甚く困惑しているようだ。だがそれだけならまだしも、お前こそ何を言っているんだというような顔をされて、苛立ちが芽生える。
「あんた、解ってるのか!?ここは敵の真っ只中だぞ!?それを、何でこんな堂々と…っ!何しに来た!!
馬鹿も大概にしとけ!!そんなに死にたいのか!?」
狙っている立場の人間である自分が死にたいのかというのもおかしな話だが、それにしても余りに常識が無さ過ぎる。
こんな組織に身を寄せつつも常識という物を手放せないクラウドにとっては怒りたくもなるものだ。
一息に捲くし立てて息を切らせるクラウドに、ザックスは漸く理解の色を見せたが、返事は「あぁ」などと酷く呑気そうなもの。
「んー…ちょっとさ、ここにはちょっと仕事…っていうか用事があってさ。」
「…用事?」
予想外の台詞に、もしやザックスはデリーグに入るための面接でも受けに来たのだろうかと馬鹿な事まで考えてしまう。
「そ、私的な、さ。」
悪びれずに笑顔で言うザックスに頭の中がくらりと揺れた。こいつは本気でおかしいのではないかと心底疑った。
「…っそれにしたって敵陣の真っ只中に飛び込むなんて無謀にも程があるだろう!!後先考えろよ!大体どうやって帰る気なんだ!?
デリーグはそんなに甘い組織じゃない!侵入者があったら、もう完璧な警戒、封鎖体勢に入ってる!」
「あぁ。そうだろうな。」
こちとら必死に今の状況と、自分の置かれている立場の危うさを必死で説明してやっているのに、この呑気さは何だというのだろう。
「そうだろうなって、お前っ…」
「いや、まぁ、待て。落ち着け。こっちの話も聞けよ。流石に何の勝算もなく敵の真っ只中に飛び込むなんて真似はしねぇよ。」
食って掛かって、怒鳴り散らすクラウドに、ザックスはまぁまぁ、とジェスチャーをつけつつ先を紡ぐ。
「ちゃーんと勝算って物があるわけだ。」
「そんなもん何処にあるって言うんだよ!」
「まぁまぁ、だから聞けって。」
「………」
「俺が生きて家に帰るためには、俺がこの組織から出るまでは組織が俺のことを殺せないようにしとけばいいんだ。
組織の出口には俺の仲間が居るはずだから、そいつと合流さえできれば確実にその場を潜り抜けられる。」
やけに自信ありげな口調だった。それはつまりその仲間とやらが本当に強いことを示しているのだろう。
……だが。
「その組織から出るまで無事で居るってのが難しいんだろ!?あんた人の話聞いてたのか!?
デリーグは完全なる封鎖体勢で…」
「まぁだから待てって。完全な封鎖体勢。だけど、俺が相手の弱みを握ってればいい訳だろ?俺を殺せないような弱みを。」
にやり、と、やはり自信ありげな笑みを向けられて、クラウドはごくりと唾を飲み込んだ。
そう言えばこいつは何でも屋だ。ラストリアの内部事情にも多少知識があったようだし、何かしらデリーグにもあると言うのだろうか。
弱みという名の情報が。
「……あんたがそれを持ってるとでも言うのか?」
「いや、ねーよ?」
にっこりと。それはそれは無邪気な笑みを向けられて、クラウドは驚きも怒りも通り越して、呆然としてしまった。
「だから欲しいなって思ってる訳だ。」
そう、付け足して器用に片目を瞑るザックスを呆気に取られたまま見守って。
だが、時が経つにつれ、じわじわと心の深い部分から強烈な感情を呼び起こすに至った。
湧き上がってくる感情、それは怒りだった。
「〜っ!あんた、本気でいい加減にしろよ!!生きて帰ろうって気、本当にあるのか!?」
「有り有り。大有りだとも。」
「じゃぁ、そんなもん何処にあるって言うんだよ!?まさか今からそんな物見つけるって言うんじゃないだろうな!?」
「いや、今から見つけてたら流石にヤバイだろう。ちゃんと見つけたって。」
「何処にだよ!?」
まるで脊髄反射のような問いに、ザックスは待ってましたとばかりににっこりと微笑んで。
ゆっくりと人差し指の先をクラウドに向けた。
「お前。」
「………………は?」
目を大きく見開いたまま停止するクラウドにザックスは悪戯っぽく笑って。
「人質?」
と、何処までも無邪気な口調でそう告げた。