Act 18 選んだ道



確実に、クラウド個人を狙った暗殺者。耳に収まる、赤いピアス。
まるで流れ続ける血のように、濁りのない赤い石の残像は、いつまでも瞼の裏に焼きついて離れなかった。













あれから、クラウドは何でも屋の事務所には足を踏み入れていない。
今はザックスの案で、事務所とは離れた、小さな廃屋の一つに住み着いていた。
理由は勿論、隠れ家である事務所の場所を知られないようにするためと、ロデスに迷惑をかけないようにするためだ。

あの日から、クラウドの元には引切り無しに暗殺者が押しかけるようになった。
とっかえひっかえ、よくもまぁこんなにも暗殺者がいたなぁという位に。
中には見知った顔もあったし、全く知らない顔もあった。
だが、元々組織に居たときから、お互いに手柄の取り合いという意味では敵同志だったのだ。
あまりポジションが変わったとも思えなかった。
どちらにせよ強さという点においては組織ではナンバーワンの実力を持っていたクラウドにとっては、別段敵ではない。
来たとしても、あっというまに返り討ちにあわせる事が出来る。

ただ、一つ問題があった。
その、数なのだ。
暗殺者という職業は普通の職業と違って、定時などという物はない。
勿論昼夜問わず押しかけてくる。そのため、寝る暇がないのだ。
いくら実力があったとしても、寝入った所に押しかけられては流石に対処は遅れてしまうし、
体力を削られた状態で挑めば、流石に動きも判断力も鈍ってしまう。
クラウドの実力を嫌というほど知っている組織は、消耗戦に持ち込まれているのだと気付いた。
陰険だが、確かに確実な手段だ。
暗殺組織のような所は、裏切り者に対する制裁が凄まじい。
そのことは知っていたし、覚悟はしていたつもりだったが、
その覚悟も甘かったと思わざるを得ない程、クラウドは体力を消耗してきていた。
ならば、住居を転々とすればいいのだろうが、そうも出来ない理由があった。
ザックスが、帰って来ないのだ。
とは言えども、それは別段突発的重要問題ではない。
ザックスが今居ないのは、何でも屋の仕事をこなしに行っているからだと知っているためだ。
ザックスが「仕事に行かなくてはいけない」と言い出したとき、自分も雇われとはいえ、何でも屋の一員なのだから、
手伝うべきなのかとも思ったのだが、ザックスは首を振った。
というのも、その仕事はクラウドが入る前に結ばれた契約のため、クラウドが介入するのは契約違反になるそうだ。
依頼者は、あくまでてザックス個人に対して、依頼内容を話し、依頼したのであり、
その内容を他者に漏らすという事は、いわゆる個人情報保護法に反するらしい。
「ごめんな、早く終わらせるから」というザックスに、虚勢を張って大丈夫だとは言ったものの、流石にきつくなってきた。
初めのうちは、すぐ終わる依頼から片付けていたらしく、ザックスはちょこちょこ帰ってきて、
暗殺者達の処理に一役買ってくれていたが、今は仕事が立て込んでいるらしく、2週間近く帰ってこない。
その間クラウドは下手に動くことも出来ず、大方一人で暗殺者達の相手をしているという状況なのである。




クラウドは、古ぼけた、廃屋の椅子に腰掛け、ザックスの差し入れのココアを啜っていた。
ちょこちょこ帰って来れていた頃に、ザックスは、簡易栄養食やら、水やらを大量に買っておいてくれたのだ。
そして、ココアの缶も。
まるで、馬鹿の一つ覚えのようだと思う。別に自分は、ココア中毒などではないのだから、
これが無ければ禁断症状が起こるとか、死んでしまうだとかいう訳ではない。
何もそんなココアばかり持ってくることはないというのに。
…とは言え、嬉しいことは嬉しいのだが。だが、それを素直に認めるのも癪に障るのだ。
そんな事を何とはなしに考えていると、ふと、気配を察知した。
耳を済ます。ザックスの足音とは明らかに異質。
つまりは、また、だ。
ただ、何処か聞き覚えのある音だった。
何かを引き摺るような、独特の音足。

(…これは)

近付いてくる。
扉が開いた頃にはもう既に、その音の正体は完全に解っていた。

「よぉ。」

扉から堂々と入って来たのは、予想通りの人物で、いつもの通り、思い切り睨みすえる。
口元に、嫌な笑いを浮かべたジルは、無防備にクラウドの方に近付いてきて、
クラウドは反射的に剣を抜き放った。
違うことなく喉元に向かって剣先を向けると、ジルは、抵抗はしないとでもいうように、両手を上げた。
思わず眉根を寄せてしまう。てっきり自分を狙う暗殺者の一人として来たのであろうと思っていたのだが、
そういう訳でもないらしい。

「オイオイ、そんな初めから殺気満開でくんなよ。俺はお前と戦いに来た訳じゃねぇ。」

「…何?」

「取引をしにきただけだ。」

「…取引?」

「あぁ、そうだ。お前にとって、いい条件のな。だから、そのおっかない物を引っ込めてくれ。」

「………」

探るような目つきを向けたが、ジルは笑みを浮かべるだけだ。
元々ジルは接近戦向きな人間ではない。
戦った所で、負けるに決まっている人物がこうして赴いたという事は本当に何か持ちかけに来たのだろう。
ロクでもない事は解りきっている。
だが、何か向こうの意図がほんの少しでも読めるというのなら、話を聞いてもいいかもしれない。
そう思い、結局剣を降ろした。ただ、いつでも飛びかかれるよう、剣は自分の椅子に立てかけておいた。
ジルは、それを満足気に見やると、勧めてもないのに、手近な椅子に腰を降ろした。
そして、徐に物珍しげに辺りを見回す。

「随分と豪勢なお部屋だな。」

ジルはそう言って笑った。勿論、ここはみすぼらしい一時の避難所に過ぎないのだから、豪勢とは程遠い。
だから今のは皮肉以外の何物でもないことになる。
揶揄するような物言いに、クラウドが睨みつけたが、ジルは笑うだけだった。

「正直、お前は今の自分の生活をどう思っている?」

「…なに?」

「今の生活。毎日毎日暗殺者を差し向けられて、寝る暇もない。
自分を陥れた男と四六時中顔を突き合わせていなきゃいけないっていう生活のことだ。」

馬鹿にした笑みは相変わらず。だが、いつもより感情が掻き立てられるのは、
その生活の原因が、ジルにもあるからだと解っているからだ。

「そろそろいい加減に疲れてこないか?休まる場所がないっていうのは。
昔の生活を懐かしむような事はないか?」

「…何がいいたい。」

回りくどい言い方に、声が鋭くなる。
すると、ジルは待ってましたとばかりに笑みを深めた。

「今なら、未だ戻れる。だとしたらどうする?」

「…は?」

予想外の言葉に、思わず眉を顰める。

「ボスは、今ならまだお前を向かえいれる心積もりがあるそうだ。ただし、ザックスの隠れ家の場所を教えれば、だがな。
お前の裏切りは、一時的な気の迷いに過ぎないに違いない、
今回の事に懲りたらもう二度とあんな事はしないだろうと思ってくださるそうだ。
そんな事で程の腕前の人間を失くすのも惜しい、とお考えになったボスの、寛大な申し出だ。」

ジルの言葉を聞いているうちに、クラウドは、恐怖のために、蒼を通り越して真っ白な顔色をしたボスを思い出した。
そして、「見捨てないでくれ」とクルーエルに取り縋る情けない姿も。
瞬間、確信した。ジルのいう事は、真実なのだと。ボスは、本当にクラウドを迎え入れるつもりなのだ。
ボスは、新羅に情報が漏れたと騙されて、酷く何かに脅えた様子を見せた。
つまり、ボスは今はまだいいまでも、いつかは新羅から身を守る必要があるかもしれず、
そのためには少しでも強い人材が必要だと理解したのだろう。
だから、クラウドを極限まで追い詰めた後で、こうしてジルを使いに出したのだ。
許す許さない以前に、完全に保身のため。
身勝手な理由だが、それならば確かにクラウドの身の安全は保障される事になる。

「な?吐いてしまえって。俺が取り成してやるからさ。」

ジルらしくもない優しい笑顔だった。

「皆お前がいなくなって寂しがってる。きっと喜んで迎えて貰えるさ。」

表情と同じく、優しい口調でそう言うと、椅子から立ち上がり、クラウドの方へ歩み寄ってきた。

「…大体、お前だっていつまでも狙われ続けたくはないだろう?」

いつのまにかクラウドの後ろに回り込んだジルは、言いながら、そっと肩に手をかけてきた。
それにされるがままになりながら、確かに、と思った。
そう、自分は何故だか解らないうちに、しかもこれまたよく解らない男に組織の裏切り者に仕立てあげられ、
その結果がこれだ。昼夜問わず組織の人間が現れ命を絶とうと剣を振るう。
毎晩毎晩眠る暇もない程忙しい。一瞬たりとも油断は出来ず、常に神経を張り詰めている。
それに、もし万が一ザックスに頼まれた1週間を乗り切ったとしても、一生終われることには変わりない。
いい加減こんな生活はやめたいというのは本音の所だ。
気付けば、肩に留まっていたはずの腕が徐々に下降して、服の上から肌を辿る。
明らかに、作為的な物を感じる動きだ。組織の中ではよくあったこと。よく強いられてきた事だ。
これは不快には違いない。だが、心を殺して我慢していればいつかは終わる。
実際に今までそうしてきたように、やり過ごし、忘れてしまえばいいことだ。
その間だけ我慢すれば、今後組織の人間に狙われる事はない。
自分の部屋で、ぐっすりとまでは行かないまでも、僅かな休息は約束される。
クラウドは、瞳を閉じた。自分の心を探る。自分はどうするべきなのか。どうしたいのか。
好き勝手肌の上を這い回っていた腕の動きが止まる。クラウドがその腕に、自分の腕を添えたからだ。
ジルが顔を覗きこんでくる。

「…決まったか?」


「ああ、決めた。」

クラウドはジルに微笑みかけた。
珍しく向けられた笑顔に、ジルが、一瞬呆けたような顔をする。

------だが。

次の瞬間、緩んだジルの顔が苦痛に歪んだ。


「っ!!お前っ!!」


クラウドは、咄嗟に掴んでいた腕に力を込めると、思い切り捻り上げたのだ。
骨のなる鈍い音がして、続いて悲鳴が上がった。
ジルは、腕を押さえて床に倒れこむと、そのまま転がった。
腕がありもしない方向に曲がっており、折れてしまった事はすぐ見て取れた。

「この、クソガキっ!!!なんて事をっっ!!!」

痛みと興奮のためか、ジルの顔は赤く、目も血走っている。
その様を冷静に見ながら思った。
こんな簡単な事だったのかと。
組織の中では何をされても逆らうことは出来なかった。絶対なる階級性の前には、己の力など絶対的に無力だったからだ。
幹部に逆らえば、消される。それは無法地帯である組織においても絶対のルールだった。
だから、逆らうような事は決してしなかったし、何をされても我慢した。

「お前は、もう二度と組織には戻れないぞ…お前は消される!!無残に切り裂かれてなぁ!!」

力でクラウドに勝てない事は解っているのだろう。代わりにばかりに散々悪態というか負け惜しみを吐いて、
ついでとばかりにクラウドの足元に唾を吐きかけた。
確かに、組織に逆らった者の末路は目にしている。
文字通り切り裂かれ、粉々にされていた人間もいたし、塵の一つも残らないほどに燃やし尽くされた人間もいた。
だが。

「やれるものならやってみろよ。」

クラウドは、そう、不敵に笑っていた。
自分は、どうすべきか。どうしたいのか。それはもう、手を伸ばされた瞬間から解っていたのかもしれない。
ジルに問われた時、咄嗟に思い浮かんだのはあの訳の解らない男の顔だった。
何度も組織に狙われながらも最重要機密書類を盗み、まんまと組織を出し抜いたあの男の顔を。
あの男は、クラウドにとって、不可解としかいいようがない男だった。
いつだって、自信満々で、出来ない事なんかないとでもいうように、何でもやってみせる。
彼を見ているうちに、彼と背中を合わせて戦っているうちに、自分は病に感染してしまったのかもしれない。
やってみないと解らない。そういう無謀という病に。
大胆不敵、無謀主義、何から何までよく解らない。
だが、クラウドはあの男が嫌いではない。いや、嫌いではない事に今更気付く。
だからだった。
あいつがやった事に比べれば、組織にただ殺されないだなんて簡単な事のような気がした。
それが、自分のやりたいことだ。

突然、ぱちぱち、という乾いた音が聞こえて、反射的に音源に目を向ける。
そこには、今正に考えていた男が壁に凭れかかって立っていた。
いつの間に帰って来たのか、全く気付かなかった。唖然としているクラウドに、ザックスは不敵な笑みを浮かべてみせる。

「格好いーーーーー!!!クラウド!!よく言った!!男前!!」

大袈裟な程手を打ち合わせ、場違いな程のテンションでそう叫ぶと、
うんうん、と大袈裟に頷きながら、クラウドの元に歩み寄ってくる。
そして、何を思ったか知らないが、肩に手を回して、後ろから抱き着いてきた。

「…なっ!!」

予想外の行動に、反射的にもがいたが、力が強すぎて振りほどけない。

「そーいう事だよ。お前の出る幕もうねーの。帰ってボスに伝えな。
…クラウドは俺のもんだってな。」

最後の方だけ声のトーンが下がったが、後ろから抱きしめられてる状態ではその表情は解らない。
だが、ジルの顔色が、音がしそうな程急激に青くなっていったのだけは解った。
しかしながらそれどころではないクラウドは、思わず勢いよく振り返った。

「俺のものってっ!」

どさくさに紛れて何変なこと言ってんだと、肘を繰り出そうとすれば、
ザックスは慌ててひょいと横に避け、「悪い悪い」と全く持って悪いなどと思ってもいない表情で言った。
睨みつけてやろうとした瞬間、蚊帳の外に追い出されていたジルがゆらりと立ち上がる気配がした。

「…貴様ら、狂ってる…暗殺組織を相手にするんだぞっ!!貴様らなんか3日ともつワケねぇ!!」

折れた腕を庇いながら、荒い息で立っているジルを、ザックスはつまらなそうに見やる。
だが、不意に、小さく笑った。

「『やれるもんならやってみろ』」

何処かで聞いた事のあるザックスの台詞に、反射的に振り向けば、意地悪そうに笑う瞳と目が合った。
そして。

「…だよな?相棒?」

と確認するような口調で問われて、恥ずかしさに眩暈がした。
思い切り睨みつけてやると、ザックスは悪びれずに笑う。

「くそっ…!貴様らっ覚えてろよ!!」

何処までも蚊帳の外扱いされたジルは、腕を押さえつけたまま、扉の外に出て行った。
しかも、出て行き間際に、足を壁にぶつけながら。
その様子が余りにおかしくて、思わずザックスの方に顔を向けると、目が合い、二人して吹き出した。

「何か典型的過ぎて笑えるよな。もうちょっと台詞捻れっての。」

明るい笑い声。先程のジルのような下卑た声とは全く違う。
ここにあるのは、陽の空気だ。それが、妙に嬉しくて、クラウドはもう一度笑った。
一しきり笑い終えると、ザックスがふと、視線をこちらに向けてきた。

「長くかかっちまってごめんな。事務所帰ろうぜ。」

突然言われた言葉に、クラウドは思わず耳を疑った。

「…いや、まだ暫く他の場所に居たほうがよくないか…?」

「…あん?」

「あいつ、あの調子じゃ多分、たくさん仲間を呼んで来る気だ。
それにまず、俺を狙ってくる。だから今戻ったりなんかしたら、ロデスにも迷惑…」

「あぁ、大丈夫だって。」

「大丈夫って…」

「それなら心配ねぇ。あいつは仲間なんか呼んでこれねぇよ…」

内部を知りもしないにも関わらず放たれた、楽観的かつ呑気極まりない台詞には、
流石にクラウドも頭に血が上った。

「…っ!あんたは知らないかもしれないけど、あれでもあいつはデリーグの幹部…」

「ああ、だから尚更新羅が許す訳ねぇだろ?」

「…………………は?」

先程と同じ呑気な口調で放たれた言葉に、クラウドは思わず動きを止めてしまう。
ザックスが、にっこりと笑った。

「渡してきちまった。最重要機密情報。」

「そ…それって…」

「お前も見て解っただろ?あのロケットペンダントの中身、新羅にバレたらまずい、
組織の存続に関わるほどに重大なデータなんだって。
こないだは、俺らまだ組織の中に居る状態で新羅が来られたら困ると思って、
新羅に送るのやめといたけど、もういいだろ?」

楽しそうに笑うザックスに血の気が引いてくる。

「で、郵送してきたわけだ。ここんとこ2週間位いなかったのそのせい。郵送準備しててさ。
本当はクラウドが危険な目に合う前に、送っちまおうと思ってたんだけど、
足がつかないように郵送しようと思ったら手間取っちまって。
でももう郵送済みだから、多分もう今頃デリーグは一網打尽だ。
あいつが組織に戻ったところで、無駄死に。」

「……………」

壮絶な言葉を口にしているというのに、ザックスの口調は、酷く無邪気だ。

「だからさ、お前は自由なわけだ。」

明るく笑うザックスに、クラウドは全身の力が抜け落ちそうになる。
では、先程の一連の行動は一体何だったというのだ。随分考え、そして決意した自分の苦労は?
本当は初めから選択肢などなかったというのに。
暫く呆然としていたクラウドだったが、徐にザックスが一つ咳払いをし、手を差し出してきて、我に帰った。
ただ、意図が掴めず、ただその手を見ていると、ザックスは困ったように頬を掻いた。

「握手だよ、握手。虚しいだろ。一人でこうやってんの。」

「あぁ…」

言われて初めて気付き、手を差し出すと、手のひらの上に何か小さな物が乗せられた。
驚いて、ザックスの顔を見ると、小さく笑って、クラウドの手の上から手を引いた。
反射的に、手のひらに目をやると、蒼くて小さな物が手の上に転がっていた。
戸惑うクラウドに、ザックスは小さく笑った。

「ソレ、前言ってた就職祝い。何か色々あって中々渡せなかったけど、よかったかもな。
今ほど渡すに相応しい時はねぇから。」

手渡されたのは蒼い石のついたピアスだった。サファイアよりは鮮やかな青色で、海の色を連想させる透明感のある石。
そう言えば以前、就職祝いとして予め買ってあったどうこう言っていた気がする。


「つか…ありがとな。」

「…は?」


不意にに付け足された台詞の意味が解らず、思わず顔を上げた。
この場で礼を言うべきは自分であって、ザックスではないと思うのだが。
見上げた先、ザックスは口元を笑みの形にしていた。

「俺と居る事、選んでくれて。」

「…は?」

先程からこればかりだが、他に言葉が出て来ないのだから仕方がない。
だが、ザックスは気にしていないようで、嬉しそうな顔で続ける。

「俺、お前にデリーグにはもう戻れないって事、言ってなかったのに、俺と居る事選んでくれただろ?だから。」

「それはっ…!」

別にザックスと居る事を選んだ訳ではなく、ただ単純に組織から開放されたいという意識が潜在的にあったからだ。
そう、反論してやろうかと思ったが、ザックスが本当に余りに嬉しそうな顔をしているので言う気が失せた。
大体が、自分の良い方にしか解釈しない男だ。言ってもしょうがない。

「じゃ、改めてよろしくな、相棒。」

笑った顔が眩しくて、相棒という言葉が妙に気恥ずかしくて、クラウドは思わず俯いた。
そして。


「…ああ。…よろしく。」

そう言う自分の声が、消え入りそうな声だというのは自覚していた。
言いながら、貰ったピアスを耳につけると、ザックスは嬉しそうに笑った。

もう、戻れない。


けれど。

自分の選んだ道だから後悔はしていなかった。









(前編終了。)






お疲れ様でした!!!(深々)
こんなに長くて、パラレルまるけなお話なのに、ここまでお付き合いくださって、本当にありがとうございます!!!
もう、本当に。感謝してもしたりないです!!


前編はこのように馴れ初め的な感じで終わりですが、後編からはラブ導入で。つかメインで。
てか、ここまでラブ導入できなかったのが苦しくて苦しくて死ぬかと思いました(笑)
後編はその欲求不満をぶつける的な展開になると思います。
そんな感じのお話ですが、どうぞ今後もお付き合いくださると幸いですvv


感想等ございましたら、こっそり耳打ちして頂けると、管理人とても喜びます。