Act 7 いい迷惑
段々近づいてくるそれに、気を張り詰めていると、その靴音は扉の前で止まった。
鉄格子の嵌った窓から現れたのは、冷たいまでに整った顔立ちに、
染めているとは思えない程見事な銀の髪、黒目をした男だった。
自分と殆ど年が変わらない位の男だったが、鋭い目つきは、もっと年上のような雰囲気を醸し出していた。
「手荒な真似をしてしまったな。」
男は落ち着いた声音でそう言った。
「私の名前はガルド。反新羅組織、『ラストリア』の頭だ。」
『ラストリア』聞いた事がある。
新羅カンパニーお抱えの暗殺組織である『デリーグ』の一員故、『ラストリア』の人間は何人も暗殺してきた。
だが、それでもここに生きて連れてこられた理由が解らない。
仲間を殺された敵討ちだというのなら、あの場で殺せばよかったものを、
わざわざ生きたままここに連れて来るメリットなどあるものだろうか。
考え込むクラウドに、ガルドは再度口を開く。
「何故ここにお前を呼んだか解らないというような顔をしているな。」
クラウドが顔を上げると、ガルドの瞳は暗い輝きを宿していた。
「確かに我々はお前に何人もの仲間を殺された。この組織にもお前を八つ裂きにしたい奴は腐るほどいる。
だが、クラウド=ストライフ。お前にはどうしてもここに来て貰う必要があった。」
眉を顰めて先を催促する。
「我々に、協力して貰うためだ」
クラウドは思わず目を丸くした。全く持って予想外の台詞だった。
「…協力?何故、俺に?」
「お前は、新羅の存在を揺るがすに値する存在だからだ。」
ガルドは至極真面目に答えたが、クラウドは思わず噴出しそうになった。
新羅の存在を揺るがすに値する存在?そんな物が存在するはずがない。
世界に轟く大企業、新羅カンパニー。
それが揺るがされるとしたら、核爆弾でもビルに打ち込まれた時位だろう。
あぁ、ただ、もう一つ。
裏家業が全て露出し、新羅が国際社会に大叩かれでもしたらまた別だ。
そこまで考えて、相手の意図が読めた。
自分は核兵器など持っていない。
ならば、この男は新羅が暗殺組織に暗殺を依頼しているということを証言しろとでも言うつもりなのだろう。
馬鹿な事を、と思う。
クラウドたった一人が暗殺を証言した所で、新羅が潰れるはずもないものを。何しろ物的証拠は何もないのだ。
しかも、そうする事で新羅にお飯を食わせて貰っているこの自分に何の利益があるのだ。
寧ろ、それを証言しようとすれば、新羅の暗殺指定リストに名を連ねられ、証言前に消されるだけだし、
もし万が一物凄く低い確率で証言台に立てたとして、自分も殺人者として追われるだけだ。
「お前が協力してくれるのであれば、今までのことは全て水に流そう。」
ガルドは抑揚のない声でそう告げた。
よくは解らないが、頗る勘違いをしているようだ。クラウドは小さく肩を竦めて見せる。
「冗談。俺は、正義だとかいう物に全く興味はない。
あんたらの組織に協力して命を削るなんて真っ平ごめんだね。」
そう言ってやれば、怒りにだろう。ガルドはぴくんと一瞬顔の筋肉を動かしたが、それだけだった。
さすが若いとはいえ、組織の頭をはっているだけの事はある。
「交渉は決裂…という事、だな。」
ガルドは表情一つ変えずに言って見せる。
「では、質問を変えよう。お前は、新羅の何を掴んでいる?」
「…は?…新羅の…?」
本気で解らず問いかければ、ガルドは軽く頷いた。
その黒色のの瞳は抜き身の刃のように、酷く鋭い。
「お前の存在は新羅のデータベースでもシークレットがかかっていた。
しかも我々の組織の技術者の英知を全て終結させても解けないほどの厳重なコードでだ。」
クラウドは驚きに目を見開いた。
(新羅の、データーベースに…?)
それは全く知りもしない事実だった。自分は幼い頃から『デリーグ』におり、
新羅カンパニーという表立った会社には足を運んだこともないはず。
それが何故、そんな事になっているのか?
黙り込んだクラウドをどう思ったのか、ガルドは初めて苛立ったような様相を見せた。
「そうか、では気が変わるまでここに居て貰うとしよう。時間はいくらでもある。」
「な、待てっ!」
思わず叫んだクラウドの言葉を気にも留めず、ガルドはクラウド達に背を向けた。
歩き去る音は次第に遠ざかり、ついには聞こえなくなった。
一体何なのだ。
男が完全に立ち去ってから、徐にザックスはクラウドの瞳を覗き込んできた。
「…お前、新羅の何掴んでんだ?」
ガルドの台詞のほぼパクり。全く持って冗談めいた物言いなのに、その瞳に添えられた色は何処か真剣だった。
「…真似すんな。」
いい捨てて、目を逸らしたが、尚もザックスがこちらを窺っている気配がして、思わず溜め息を落とした。
こいつも、もしかしたら反新羅組織の一員なのかもしれない。そう思った。
そうであるならば、ザックスが新羅に狙われている理由も頷ける。 ただ相手がガルドだろうが、ザックスだろうが言うべき事は変わらない。
「…新羅は組織の雇い主だ。
その雇い主の駒の一つに過ぎない俺が、新羅の機密だの何だのにに関係がある訳がないだろ?よく頭使えよ。」 はき捨てるように言えば、ザックスは一瞬考える素振りを見せた後、頷いた。
「まぁ、確かにな。」
「ったく、とんだ勘違いに巻き込まれていい迷惑だ。」
そう呟いた時、ザックスが小さく苦笑した事には気付かなかった。
いつもながら組織の名前が超適当(死) こんな話でごめんなさい。 |